火の国、風の国物語 戦竜在野 (富士見ファンタジア文庫) [感想]
復讐の剣、慈悲の剣。
世界観が魅力だった。一巻ということもあるので、まだまだ序章であるし、これからを期待させるにとどまっているのだけれど、そこまでいく過程を丁寧に描いている。
主人公のアレスの過去を追いながら、彼が現在置かれている状況を読ませてくれるので、作品がどんなものなのか方向性含めてゆっくり理解できるのは良いなと感じた。
戦場の悲惨さと、人殺しをするということ。
アレスは過去に精霊と契約しているので、まさに一騎当千の強さを持っているのだが、無駄には人を殺したがらない。出来れば殺さずにその場を治めたい。
けれども、戦場ではそんなことは言っていられなくて、アレスが手を抜けば味方が全滅する。人殺しはしたくないが、他の誰かを守るために人を斬る。英雄らしい活躍には爽快感を覚えた。
また、軍勢対軍勢を描いているので、惨敗する相手のことも描かれているのだけれど、それがあるから戦場がより悲惨に映る。アレスの強さは味方には頼もしいが、敵側には悪夢でしかない。
死ぬなら死ぬで早く死ねたらどんなに楽か。アレスの強さを目の当たりにして恐怖しない者はいない。死にたくはない。それでいて、一撃で死ねなければ恐怖は続くし、死ねなかった者が戦場で受ける苦痛が待っている。逃げた奴は最低だが、この苦痛に比べたら賢い選択だと考えずにはいられない。
戦での勝利と敗北。
勝利からの高揚感や爽快感、敗北からの酷さや苦痛。それらが上手く描かれていて良かった。血塗れになる兵士たちの姿が浮かんだし、アレスだって返り血塗れだっただろうところにも、生々しさを感じる。
王道のファンタジーらしく剣と魔法の世界。貴族らしい言い回しでのやり取り、政治的な部分もあり、主人公の一騎当千ぶりには格好良さを覚える。精霊とのやり取りだったり、王女や妹などの可愛らしい女の子の活躍も期待できる。
面白かった。
Presented by Minai.
- 作者: 師走トオル,光崎瑠衣
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る