Infinity recollection

ライトノベルを中心に感想を載せているサイト。リンク+アンリンクフリー。

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫) [感想]

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)

 

高校に行かなくなり半ば中退状態の慎一は、とうとう就職、復学、離縁の三択を両親から迫られ、就職することを決意する。しかし、世の中は甘くない。切羽詰って就職できたのは怪しい会社で――気付くとドラゴンが空を飛ぶ異世界に連れてこられていた。

 

異世界交易で世界を切り開け。

 

慎一が就職した会社は、異世界に日本の「萌え」オタク文化を輸出しようとする会社だったのだ。日本の富士樹海がファンタジー世界と繋がってしまったことで、未だ中世ヨーロッパ時代の生活水準が基盤となっている神聖エルダント帝国に、エンターテインメントを普及させる。

 

言うだけなら簡単かもしれないが、そこにはいくつもの壁がある。まずは言語だろうか。異世界なので当然言葉が異なるし、故に漫画やアニメを持ってきても、読めないし何を喋っているのか分からない。慎一たちは魔道具を介することで自動翻訳されるので不便はないが、萌え文化を普及させるのにこれは痛い。

 

また、識字率の問題もある。日本に住んでいると読み書きできて当たり前といった感覚だが、神聖エルダント帝国ではそもそも自国の言語ですら読み書き出来ない平民が多い。本や紙は貴族が持つ高級品。インフラも整っていなければ、教育機関も満足に発達していない。ましてや平和ではない。これでは娯楽どころの話ではなく、貴族を除いて生きていくだけで精一杯な人たちばかりでは、娯楽普及は難しい。

 

現実世界を見ても、エンターテインメントが発達しているのは先進国だ。発展途上国には新しく文化が発生する余裕がない。日本政府の対応と思惑もそうだけれど、現実と繋げて読ませてくるのは流石ですし、上手すぎる。

 

人々には変革を――。

 

壁を取っ払うために、社会基盤からどうにかしていこうとする慎一にワクワクさせられた。次はどんなことを導入させていくのか、何を教えていくのか。慎一の選択で人々が豊かになるのです。まさにシムアキバでした。

 

キャラクターも人間、エルフ、蜥蜴人などと多種多様で、それだけ読んでいるだけでも楽しいわけだけれど、特に好きだったのはハーフエルフのミュセル。慎一の身の回りのお世話をするメイドさんである彼女は、いつも健気に優しく接してくれるので、言動からちょっとした仕草まで全て可愛らしいのです。いや健気。

 

これら登場人物を描いていく中で、人間と異種族間に深く根付いた『差別』問題を描いているのも良かった。異文化交流をしていく上で、文化の違いに戸惑うのはごく当然のこと。現実世界を見ても当てはまるものが、異世界ではどうなるのか。そんな中で、日本人であり続ける慎一の姿は格好良い。

 

広がっていく物語の世界。

 

これは物語全体に関わってくることだけれど、世界観にしろ登場人物にしろ、背景が透けて見えるのが素晴らしい。特に描写をしているわけでもないのに、後ろにあるものが想像できてしまうし、それがあまりにも自然だから読んでいて気持ちが良い。

 

面白かった。早く続きが読みたい――と思ったら来月、というか今月発売。楽しみです。

 

 Presented by Minai.

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)

アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者1 (講談社ラノベ文庫)