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グランクレスト戦記 1 虹の魔女シルーカ (富士見ファンタジア文庫) [感想]

グランクレスト戦記 1 虹の魔女シルーカ (富士見ファンタジア文庫)

 

ロードス島戦記水野良が描く一大戦記ファンタジー。

 

これは凄いのが来た。今年読んだライトノベルの中でも最高に面白い作品なのではないだろうか。その世界観、ファンタジー設定、登場人物の特性特徴、物語の構成、作品内のリソースを開示するタイミング、公開情報の量と範囲、全てが繊細に作りこまれているから読み応えがあると共に読んでいて気持ちが良い。

 

恥ずかしながら、読み手はロードス島戦記を読んだことがありません。読んだことがある人に話しを聞くと、一巻二巻と著者の上達を感じながら、気づくと作品に引き込まれ、読み手まで成長させてくれる、そんな作品だというのです。読もう読もうとは思っていたのですが……、そのタイミングを見失ったまま著者の新作が発売されるところまで来てしまいました。

 

グランクレスト戦記――その圧倒的なファンタジー世界から、傑作と呼ばれる作品の片鱗を見た気がします。

 

物語は天才魔法師シルーカと、故郷を救うために旅をする騎士テオが出会うところから始まり、二人の戦いが聖印をめぐる大きな渦に発展していくところが描かれる。この二人が本当に魅力的なので、二人の歩みを見たいを思わせる。

 

シルーカは有能であるが故に、ルールのグレーゾーンを選択するような女の子で、自分だけで行動する癖があるから周囲を困らせる。テオは正義感溢れる騎士で、温厚篤実を地でいく青年ではあるが、けして情だけではなく論理的に物事を捉えられる人間だ。お互いが主人公でありヒロインでもあり大人なので、感情移入がしやすい。古典的なファンタジーの雰囲気に則った主従の関係が描かれるのも魅力だろう。

 

魔法士協会。

 

また、個人的に好きなのは、作中における魔法の位置づけだ。シルーカたち魔法士は最終的に魔法大学に進み、それぞれの専攻にあった勉強をして、君主たちと契約する。この専攻が面白い。青の召喚魔法学部、赤の教養学部、緑は医療学部的なところで、全部で7つあるのだが、ファンタジーの魔法使いと聞いて想像する炎、水、雷などを自在に操って敵と戦う姿はそこにはない。元素魔法としてそれらはあるし攻撃の基礎だけれど、あくまで基本なのだ。

 

つまり、大学に入ってまでやるような分野ではないのだろうというのが想像できる。もちろん、高位の元素魔法になるとその内ではない様な記述はあるのだが、どの専攻でも元素魔法までは全てマスターしてるだろうことが想像できる。これだけ聞くと魔法使いが異常な戦闘能力をもっていることが分かるのだけれど、この世界は簡単じゃない。

 

君主側にも自分を支持する兵士や騎士や君主たちに聖印の力を分け与えることができるので、魔物や魔族に通じる人間以上の力を発揮することが可能になる。加えて、この聖印にもギミックが仕込んであり、面白いのだ。

 

読み終わって興奮にしているのもあるのだけれど、語り出したら止まらない。世界観を想像させるのが丁寧で上手いので、いつの間にか作品に引き込まれていた。説明が足りないのではなく、説明した上で、想像する余地を与える――この絶妙なバランス感覚は凄い。全てが綺麗にまとまっていた。

 

 Presented by Minai.