Infinity recollection

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アオイハルノスベテ2 (ファミ通文庫) [感想]

アオイハルノスベテ2 (ファミ通文庫)

 

死ぬ気で頑張る。文化祭だってそれは同じだ。岩佐や大河内に言った手前、文化祭にも積極的に関わろうとするけれど、横須賀の中では何かが違う。三年後に死ぬという現実と死ぬ気で頑張り悔いを残さないという一種の矛盾、死なない為にも自ら動くしかないが明確な答えはなく、何をすれば死なないのかは分からない。そんな不安定な心の振れ幅を木崎まひるの転校話と合わせて読ませてくれる。

 

輪月症候群があったら耐えられているのかなとも思うのですが、横須賀の心理状態はとても複雑ですね。死ぬ気で頑張ったからといって報われるかどうかは分からない。けれど時間は待ってくれないから動くしかない。動かなければ死ぬだけ。これは徹頭徹尾変わらないのだけれど、そこに木崎まひるが転校するという話が飛び出す。これを横須賀の中では無意識下で自分とつなげて見ている部分があって、学校からいなくなる人間に対して何かを残してはいけないのではないか。つまり思い出だとか悔いのないようにと言ったところで、去る人間からすればどうなのだと。だから折角、一人自分にだけ打ち明けてくれた転校話だったのに、まひると距離を置いて遠ざけるようなことをしてしまう。言葉で説明していくとかなりシリアスに話を振っているのだけれど、クラスメイトの女の子から秘密を打ち明けられた男子生徒というシチュエーションで考えるととても学生らしい場面なのかなとも思えます。そこには横須賀自身「どうしていいか分からなかった」というのがあるのかな。恋愛とか異性との付き合い方の学生らしさというか、戸惑いみたいなものも感じられたのですよね。一言何か言うとか行動を起こせばいいのだけれどそれが恥ずかしいし勘違いしたくない、けれど後から何かやるべきだったのかと後悔している、そんな一連の学生らしいアレですよね。もうこれこそが青春なのだけれど、物語を進めながらも印象深く「学生らしさ」を描いてくるところはやはり流石で上手い。作中で焼きそばを頬張るまひるが、青春の味がどうこうという場面があるのだけれど、案外青春って泥臭いですし、甘酸っぱくなんかない。鉄板で焼け焦げるみたいに身体を削ったり、心を削ったりします。冒頭からそんなことを想起させられながらの一冊だったので、一冊読み終わったときの台詞と台詞、独白なら独白がかみ合って綺麗にはまっていく感覚は爽快でした。

 

総括してしまえば異能力を全面に押し出して描かれた1巻とは違って、今回はキャラクターと学生生活に焦点を当てて丁寧に描いていたのがとても良かったということになるのですが(もちろん核には輪月症候群が存在するのだけれど)、物語の構成から今後の道筋を明確に語ってくれたことには安心できましたし、ギミックとしての輪月症候群を使い切っているというところはやはり素晴らしいなと。作品のテーマとなっている異能力は正直なところなくても青春物語は描けるのかもしれないけれど、あることでより面白い。作中の学校側と横須賀の立ち位置はまさにそれですよね。なくても社会(学校外)じゃ困らない、でもあれば学校は楽しくなると信じてる。うーん複雑ですね。一見して無駄に見えても学生からすれば無駄じゃないことって多いのかもしれません。大人から下らないと言われても頑なに大切だと守り通したいこと、多いのかもしれません。学生って複雑。今回は横須賀が他人を遠ざけて一人で頑張ることに対して、そうじゃないだろと活をいれられる。一人で頑張るんじゃなくて皆で頑張ろうが何でいけないのか、折角死ぬ気で頑張るなら皆で頑張ろう。そのために力を貸してくれる友達はもう横須賀の隣にいたのですよね。「いつだって本番なんだよ」確かにその通りだけれど、気づいて行動するのは難しい。今後は仲間で頑張っても数の暴力に勝てなくなるときが来るかもしれません、でも諦めないで欲しいな。

 

物語が描くのはあくまで学生たちの青春でしたね。アオイハルノスベテとは要するにそういうことだ。これはラブコメではないし、学園異能バトルでもない。ただただ、真っ直ぐに青春なのだ。

 

アオイハルノスベテ2 (ファミ通文庫)