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究極残念奥義―賢者無双―~俺が悪いんじゃない、俺のことを無視するおまえらが悪いのだ~ (一迅社文庫) [感想]

究極残念奥義―賢者無双―~俺が悪いんじゃない、俺のことを無視するおまえらが悪いのだ~ (一迅社文庫)

 

全く方向性の違う作品をここまで書けてしまうと、もはや本当に同一人物なのだろうかと疑念が湧き上がってくるわけですが、そういう意味では松山剛先生はとても器用な作家さんなのですよね。電撃文庫では美しくも儚い胸が締め付けられて思わず感涙してしまうような物語を描いているわけですが、そのストレスなのでしょうか……。一迅社文庫さんでは思わず「これはヒドイ!」と言いたくなるような頭のネジが緩んでいるどころかそもそも最初からネジ止めされていなかったようなハイテンションコメディを描いていく。キャラクター重視で美少女たちを好きになれれば楽しく読むことは出来るでしょう。また、文体にしてもユルユルでテンポ感重視。そのせいで説明されてることに再度驚いたりとキャラクターの言動に怪しいところがあるのですが、そもそもが上手い人がフォーマットをわざと変えて書いているので、削りに削っていると読み難い文章も何となく読めてしまう不思議。

 

本作はとにかく「賢者タイム」という一発ネタを思いついてしまったが故に、それを作品にしてしまったのだろうなという遊び心が伝わってきます。それとドラゴンボールへのリスペクト。ネタで動いている作品なので、登場人物の名前やモンスターの名前などとにかく適当でそこに意味はない。分かりやすさ優先なのでそこに理由があるのかもしれませんが物語の進行も詰め込めるだけ詰め込んでいるので中ボスやラスボスが雑魚キャラになっているのはご愛嬌。むしろ、主人公たちはレベル上げを全くせずにレベル1のままモンスターを倒していったので、これぞ縛りプレイの王道「低レベルクリア!」まあ主人公が縛られていたのは強要される自分の性欲処理になのですが――。そんな具合で賢者タイム」をキーワードに終始コミカルで笑いに溢れた作品に仕上がっていました。それとドラゴンボールへのリスペクトね。

 

ただし、本作を純粋にオススメできるのかと言われると否です。同レーベルでは「世紀末救世主伝説」は面白かったけれど、本作の場合には上記から感じ取れるようにまるで己の度量の大きさを試されるがごとく、どこまで作中に溢れるコミカルさと緩さを許せるのかと、キャラクターへの好感をどれだけもてるか好きになれるかというのが面白さの大半を占めている。故にそこが合わなかった自分は作者が松山剛先生でありその作風と刊行された他作品を知っているからこそ読めているというのは正直あります。少なくとも松山剛先生の作品でなければ一度そっと本を閉じて壁に投げつけてから再度読んだことでしょう。乱暴な表現になってしまって申し訳ないのですけれど、そもそも普段は絶対に購入しないタイプの作品なのだから合わないのは当たり前なのですよね。何か悩んでいたり、暗い気持ちのときに読めればスッキリするのかもしれません。