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Infinity recollection

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アリス・エクス・マキナ 01 愚者たちのマドリガル (星海社FICTIONS) [感想]

アリス・エクス・マキナ 01 愚者たちのマドリガル (星海社FICTIONS)

 

高性能アンドロイド・アリスが普及した未来。人間とロボットとの交流を描いていく作品なわけだけれど、語られた物語はタイトルの通りに終盤になるまで真相を分からせない丁寧な作りで優しくて儚い悲劇となっている。愚者とは果たして誰を指した言葉なのだろうか。冬治のことだろうか、ロザのことだろうか、あきらのことだろうか。はたまた人間のことだろうか、アリスのことだろうか。ジグソーパズルの全ての欠片をそろえ終わったときの達成感はときに絶望感と似ている。本作も全ての欠片をそろえ終わったとき、後悔と寂寥感に満ち満ちて知らずにいた方がきっと幸せだったろうと思うことだろう。その行いはまさしく愚者だった。けれどそれは知るべきことであり、心が締め付けられても後悔することは分かっていても愚者であり続けて感じ取るべきものだった。

 

作中でアリスとは何なのか冬治が独白するけれど、読み手としてはアリスとは「人そのもの」だと思う。より正確には文字通りの意味の他に、アリスを購入した人間そのものといった方がいいのだろうか。そこにはアリスを購入した理由があるのだからその理由によって己の価値が決まるというものだ。アリスは1250万円で販売されているわけだけれど、この値段に対して高いと思うだろうか安いと思うだろうか。そもそもこの感じ方で違いが出るのでしょうが、個人的には「安い」だと思うのです。仮に子供一人を育てあげるのに必要な金額というのを思い描いて欲しいのだけれど、そうしたときに「じゃあどちらがいいですか?」と怖い問いかけをされている気がしたのだ。同時に「だから人間とアリスどこが違うのか?」と問いかけられている気もした。炭素フレームの肉体に書き込まれたソースコードから演算した結果を電気信号として行動に移すアンドロイド。人間だって身体の20%くらいは炭素で出来ているし電気信号で身体を動かしています。思考だって人間と同じように感情を表に出せますし精巧なアリスは人間と見分けがつかないのだから、それはもう線引きがどこにあるのかと。――そんなロボットと人間の物語の基本を押さえて見せつつ、相手の好き嫌いを判別する指標として印象値というものが存在するという設定には「もう人間と同じなのではないか?」と思いました。相手を見たとき・コミュニケーションをとった印象で好きか嫌いか値が設定され、その値は常時上下していくとのことだけれど人間だって同じですよね。第一印象が良い人、徐々に嫌いになった人もいれば反対に徐々に好きになった人もいる。印象値って人間の心そのものな気がします。

 

さて、読み始めの序盤。ロゼという得体の知れないアリスの薄ら寒さにホラー小説でも読んでしまったのか錯覚したのを覚えている。表現される冷たいまなざしに、どこかぎこちなくもとれる親切すぎる対応には少し人間味を見出すことが難しかったからだ。何を考えているのか分からない。意図して怪しい。だからミステリーを基本としながら、ホラー系なのかハートフル系なのか中盤に至ってもそこは読めなかったというのは正直なところだ。そういう意味でも不安定に心を揺さぶられたわけだけれど、描かれる文章は丁寧の一言でとても心地よかった。終盤の悲劇に至ってもその丁寧さが変わらないので、読み終わりの後味が結末と比較して爽やかに収まっている。今なら星海社さんのWEBサイトで無料で読めたりもするので、一度読んでみてはいかがだろうか。

 

アリス・エクス・マキナ 01 愚者たちのマドリガル (星海社FICTIONS)

アリス・エクス・マキナ 01 愚者たちのマドリガル (星海社FICTIONS)