Infinity recollection

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絶深海のソラリスII (MF文庫J) [感想]

絶深海のソラリスII (MF文庫J)

 

続編が発売してるじゃないですかヤダー。

第一巻では深海で展開されるパニックホラー に戦々恐々としながら、背中から這い寄ってくるような理不尽さ・不気味さ・気持ち悪さをまざまざと見せ付けられて、止まらない鮮血と悲鳴に主人公のミナトと共に胸を抉られる思いを共有し、心で絶叫しました。どうしてこんなことになってしまったのか。後悔しても始まらないけれど、この惨状は何なのだろうと。個性的で魅力的なキャラクターを創造していくのは難しい作業ですし、ましてや一つの物語を完成させる上でおのずと愛着も湧いてくるはず。だからこそ作品の為に一切の容赦なくその命を刈り取っていく作者は鬼だなと思うと同時に本気なのだなと思ったものでした。作品を構成する上で死が確定しているからこそ、最大限出し惜しみはしない。だからこそ読み終わった時の開放感と絶望感は半端ではなかったし、完成度は一級品だった。そこが今回、満を持して二巻発売だ。

 

読んだ人なら誰もが思うあの絶望感と無力感。僕らは知っているあの深海の恐ろしさ。だから純粋にミナトを応援出来る。流行というかライトノベルのスタンダードに定着して久しい主人公最強設定。意味のある最強設定は許容できるが意味の無い最強設定が多すぎると感じている昨今、本作はそれらとの方向性がちょっと違う。本作のミナトは異能力を持っていて常人に比べて強いけれどけして最強ではない。むしろ敵であるアンダーの方がよっぽど性質が悪く異能力を持っていてやっと善戦出来るといった戦力バランスなものだから、死の匂いが読んでいて伝わってくるのだ。何せ一撃受けただけで人が死ぬのである。「それどんな無理ゲー?」と言われても仕方ない。気合を入れたら勝てるだとか、実は最強能力者でしたということは全くあるわけも無く、ましてや鮮血の色を知っている僕らには生きるという未来に対して安心が出来るわけもない。背中で語るミナトの姿には純粋に頑張れと言いたくなるし、絶望を味わっている彼だからこそ絶対に生きて帰れと言いたくなる。何でも良いから死ぬな。絶対に死ぬな。仲間を守りきれ。恐怖心は犬にでも食わせろ。焦燥感を振り切れ。今度こそ絶対に連れて帰れ。読んでいて一連の思いがアドレナリンと共に一気に噴出したのは、ミナトに幸せになって欲しかったからですし、彼ら彼女らのようにアンダーを生み出した黒幕に対して怒っていたからなのでしょう。生きるか死ぬか。絶望の先にある未来のさらに先には、一体何が待っているのでしょうか。読んだことがない人は是非一巻からから読んでみることをオススメします。

 

――しかしながら、どうやって続けるのかと思っていたのだが、これがまた綺麗に続きを書いてくる。洗練された続編の出し方は、一昔前のライトノベル作品たちを彷彿とさせました。あくまで一巻目は完成度重視の一発物(伏線は張るにしても)。そこから続きを書けるかどうかは作者の腕しだい。続刊前提で書かれる作品が多い中、珍しいですし挑戦している。だからこそ内容も裏切らない。多少、荒削りな場面転換は垣間見えるし癖のある説明口調もありますが文章は読みやすい。表現が的確なのでシームレスに頭が理解して映像まで持っていけるのですよね。また、一巻発売から一年が経過しているわけだけれど、良作品は忘れないから一年後だろうが買いますし、むしろ現実に一年が経過していることで主人公ミナトが絶望から立ち直りかけているという表現がとてもリアルに感じられた。伏線の回収もロマンチックというかヒロインとしてシャロン・ナイトレイを登場させるのだから作者は分かっている。勝気なお姉さんかと思ったら冷静なクールビューティだけれどちょっと天然入ってて、とても可愛いお姉さんでした。

 

ネイビーシールズ」「フルメタル・パニック!」を彷彿とさせるミリタリー要素。「ブラック・ブレット」「エルフェンリート」を思い出させるダークサイドの混沌とした絶望感。「翠星のガルガンティア」のSF海洋要素。思いつくままに列挙したけれど少しでも本作の手がかりになればと思う。

 

では最後に、とりあえずお前らゲイとかバイとかとてもコクサイテキデスネ。イギリス紳士も脱帽だよ。

 

絶深海のソラリスII (MF文庫J)

絶深海のソラリスII (MF文庫J)

 

 

究極残念奥義―賢者無双―~俺が悪いんじゃない、俺のことを無視するおまえらが悪いのだ~ (一迅社文庫) [感想]

究極残念奥義―賢者無双―~俺が悪いんじゃない、俺のことを無視するおまえらが悪いのだ~ (一迅社文庫)

 

全く方向性の違う作品をここまで書けてしまうと、もはや本当に同一人物なのだろうかと疑念が湧き上がってくるわけですが、そういう意味では松山剛先生はとても器用な作家さんなのですよね。電撃文庫では美しくも儚い胸が締め付けられて思わず感涙してしまうような物語を描いているわけですが、そのストレスなのでしょうか……。一迅社文庫さんでは思わず「これはヒドイ!」と言いたくなるような頭のネジが緩んでいるどころかそもそも最初からネジ止めされていなかったようなハイテンションコメディを描いていく。キャラクター重視で美少女たちを好きになれれば楽しく読むことは出来るでしょう。また、文体にしてもユルユルでテンポ感重視。そのせいで説明されてることに再度驚いたりとキャラクターの言動に怪しいところがあるのですが、そもそもが上手い人がフォーマットをわざと変えて書いているので、削りに削っていると読み難い文章も何となく読めてしまう不思議。

 

本作はとにかく「賢者タイム」という一発ネタを思いついてしまったが故に、それを作品にしてしまったのだろうなという遊び心が伝わってきます。それとドラゴンボールへのリスペクト。ネタで動いている作品なので、登場人物の名前やモンスターの名前などとにかく適当でそこに意味はない。分かりやすさ優先なのでそこに理由があるのかもしれませんが物語の進行も詰め込めるだけ詰め込んでいるので中ボスやラスボスが雑魚キャラになっているのはご愛嬌。むしろ、主人公たちはレベル上げを全くせずにレベル1のままモンスターを倒していったので、これぞ縛りプレイの王道「低レベルクリア!」まあ主人公が縛られていたのは強要される自分の性欲処理になのですが――。そんな具合で賢者タイム」をキーワードに終始コミカルで笑いに溢れた作品に仕上がっていました。それとドラゴンボールへのリスペクトね。

 

ただし、本作を純粋にオススメできるのかと言われると否です。同レーベルでは「世紀末救世主伝説」は面白かったけれど、本作の場合には上記から感じ取れるようにまるで己の度量の大きさを試されるがごとく、どこまで作中に溢れるコミカルさと緩さを許せるのかと、キャラクターへの好感をどれだけもてるか好きになれるかというのが面白さの大半を占めている。故にそこが合わなかった自分は作者が松山剛先生でありその作風と刊行された他作品を知っているからこそ読めているというのは正直あります。少なくとも松山剛先生の作品でなければ一度そっと本を閉じて壁に投げつけてから再度読んだことでしょう。乱暴な表現になってしまって申し訳ないのですけれど、そもそも普段は絶対に購入しないタイプの作品なのだから合わないのは当たり前なのですよね。何か悩んでいたり、暗い気持ちのときに読めればスッキリするのかもしれません。

 

 

ガーリー・エアフォース (2) (電撃文庫) [感想]

ガーリー・エアフォース (2) (電撃文庫)

 

F4ファントムのキャラクターいいですね。精神年齢も高めでお嬢様っぽいクールキャラ。極度の現実主義者というか、少しでも長く人類を生き延びさせる為に戦っているので、現状とこれからを天秤にかけてより人類のためとなる方法を選択してしまうが故に冷酷に見えるときもありますが、要するに不器用でとことん真面目でプライドと信念を持っているキャラクターです。緑髪でおかっぱ頭というビジュアルも好きだったりします(緑は好き嫌い別れますね)。彼女はベテランということもありますし、てっきり部隊編成では隊長機にでも抜擢されるのかと思いきや、話は別な方向に進んでいきましたから慧の心労を慮ってしまいますね。だからこそ意外だったのですが慧が訓練や筋力トレーニングで戦闘機を操縦できるようになるとは思わなかった。レーダー要因になるものだと思っていたものですから「あれ? 案外戦えちゃってるな」と、確かに戦闘機乗りの方が格好良いですし読んでいて楽しい。というか、それが出来ちゃうのであれば慧の言う通り、アニマと人間の関係性は変わっていくのかもしれませんし、慧とグリペンの特殊性が際立ってもいますから今後はその辺りに軸足を移して物語を展開していってくれるのでしょうかね。楽しみです。

 

 

妹さえいればいい。 (ガガガ文庫) [感想]

妹さえいればいい。 (ガガガ文庫)

 

またとんでもないモンスター作品を生み出してしまいましたね。やはり平坂読先生は天才に違いない。「ねくろま。」ではヒロインが常にハダカという画期的なアイデアからホラー系ヒロインを読ませてくれましたし、「僕は友達が少ない」は言わずと知れた残念系ヒロインを読ませてくれました。レーベルが変わってもヒロインをようしゃなく明るく脱がしに積極的に全裸するのは変わらないのですね。逆に安心しちゃうから不思議。今回はさしずめ、ぶっ飛んだ系ヒロインやもっと直接的に変態系ヒロインと言ったところでしょうか。妹キャラとのラブコメ作品なのかと思ったら、妹キャラが大好きなライトノベル作家が主人公のお話でした。しかも割りと下品というか、主人公の思考回路がそもそもぶっ飛んでいて妹に対する愛が重すぎること重過ぎること。作中作の主人公が執筆したラノベには妹キャラが毎回登場するのだけれど、文章におこされたときの破壊力たるや、とてもじゃないが公共の場では読んではいけない。これは一人部屋に篭って静かに読むべき作品でした。作家業の大変さや面白さや夢やらとレトロ・アナログゲームとビールを詰め込んで、キャラクター重視エンターテインメント重視でエロくしたらこんな作品に仕上がるのかもしれませんね。仮にもライトノベル初心者にはオススメできそうもない作風に仕上げてくる読先生は紛れもなく漢ですし、「僕は友達が少ない」が好きだからって継続で作者買いしてくれた人たちをばったばったと切り伏せていく画まで見えました。この作品を読んでいたら「……どうしたの?何か悩みとかあるの?」って心配されるまである。

 

ライトノベル作家の生態をあることなのか、ないことなのかは分かりませんが描いているわけですが、あとがきで渡航先生が兼業作家と専業作家の違いに言及しているのは面白かったです。基本的に話はコミカルに進みますが、ふとした瞬間にそういった業界あるある的な側面をシリアスに語っていて興味深い。才能の有無で天才系作家と職業系作家に分類される云々で作家の劣等感や葛藤や羨望といった生々しい感情を描いたり、登場人物たちが学生だから青春活劇に見えるけれど書いてあることはキツめですし、ちゃんと心が痛い現実感がある。ぶっ飛んだキャラクターを配置して変態的な台詞を言わせているのに、作品としての描きたいところがここだよというのをしっかり見せてくれるのは平坂読先生だなと。また、某有名ライトノベルランキングを派手に袈裟切りしていたり、ラノベを語ることに対して縦断爆撃してみたり、出版業界に警鐘を鳴らすどころかぶっ壊しにかかる読ちゃん節には脱帽。レーベルが変わっても己を貫くスタイルに惚れますね。

 

妹さえいればいい。 (ガガガ文庫)

妹さえいればいい。 (ガガガ文庫)

 

 

WORLD END ECONOMiCA (2) (電撃文庫) [感想]

WORLD END ECONOMiCA (2) (電撃文庫)

 

ハルがどのように立ち直ったのか、そもそもどうやって話を続けてどこに着地しようとさせるのか気になっていたわけですが、二十歳になったハルは確かに成長していましたし、後悔や失敗から逃げずに立ち向かえる強さを得たように思います。それは一人で孤独に戦い続けていた戦えると思っていたハルが、仲間の力を借りても良いことに気づいたということであり、仲間を頼るということに対して本当の意味で信じることが出来たから、信頼出来たからなのかもしれません。

作中では投資銀行や証券会社の不正や不誠実な行いに対して真っ向から立ち向かおうとする姿が描かれていたのですが、大企業が仕掛ける一種イカサマのような立ち居振る舞いには大掛かりで大仰ではあるにしても、納得せざるを得ないところがありまして何とも暗澹たる気持ちにさせられます。つい最近も現実にIPO関連で酷い案件があったばかりでしたね。仮にも名立たる証券会社が息巻いて主幹事として取り計らったにも関わらず、公開したモバイルオンラインゲーム会社の株は見る見る下落してIPO詐欺と叫びたくなる有様に見えました。証券会社は公開価格から結構な手数料を貰えているはずですし、企業側にしても公開後に株式を売却していれば相応の利益は得られたでしょうけれど、泣きを見のは株式を購入した投資家や投資屋だけでしょうか。作中で語られる、騙されるのは顧客だけというのは確信に迫っている気がしますし、続いて顧客は自分を騙すという文言には返す言葉が見つかりませんでした。

 

今回、クリスがプラス13%の利益を上げた後にマイナス18%の損益を負うことになるのですが、それに対してハルが放つマイナス273度の世界を見てきたから掠り傷だという言葉はとても重みがありました。顔は青ざめ胸が締め付けられて血流が凍る。恐らく損益をマイナスの数字を見た人は誰もが感じることになるその表現。数字が大きい小さいは関係がないのです。大きければ卒倒しそうにもなるでしょうが、小さくても現実逃避はしたくなる。新キャラクターであるエレノアが加わりハガナを失って4年が経過した今、ハルは太陽王を打倒するべく己の剣を抜き放ったわけですが、そこで太陽王にも家族がいたことに気づいてしまう。このまま切り伏せるべきなのか、そもそも切り伏せられるのか、逆に太陽王の侵略を許容することになるのか。はたまた、一緒に宮殿でも拵えるのか。そんなわけで中巻でした。クライマックスがどうなるのか楽しみです。

 

WORLD END ECONOMiCA (2) (電撃文庫)