小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫) [感想]
空軍のエースパイロットであるクラウゼ・シュナウファー中尉は、夜間戦闘飛行の類稀な才能を持っていて、敵と味方から畏怖と敬意を持って狐と呼ばれる。ある日、任務から帰還すると休む暇なく輸送機に押し込まれ、新たな任務を言い渡される。
それは戦争を終らせる切り札となりえる科学者の補佐をしろというものだったが、その科学者とは16歳の天才少女で――。
架空の様々な国家が対立している世界で、その緩衝材の如く資源所有権を巡り、小国の内戦、という形で大国同士が戦争している。技術レベルはファンタジーが入っていて、ジェット機、電子兵装、ミサイルはあっても、核爆弾は無いという複雑なものとなっている。
この関節的な戦争をしている二大国。双方の軍人と科学者が描かれていく。
主人公のクラウゼは空軍の軍人であるが、出世には興味が無く、出来れば人は殺したくないというスタンスを持っていて、早く予備役に入りたいとも考えている。そんな彼が補佐するのは天才少女、アンナリーサだ。
アンナリーサは軍に協力して兵器を開発していくわけだが、天才ゆえに傲慢であるので、そのプライドで技術者と対立してしまう。この二人の関係性が面白いですし、アンナリーサが徐々にクラウゼのことを信用していく過程が読んでいて面白い。
そして何よりアンナリーサが可愛らしい。
一方、敵国にも軍人と科学者がいて。狐に兄を殺された新任少尉エマと、その復讐を手助けしようじゃないかと誘った科学者アジャンクールだ。エマは名も知らぬ狐に異常な憎悪を持っていて、アジャンクールはある理由から30年前の大戦で軍に協力して以来、心を病んでいる。
アンナリーサとアジャンクールは、お互いに敵国と競うようにして大量破壊兵器を開発していく。
実際に人を殺す軍人と、間接的に人を殺す科学者。戦争責任を問う時に、果たしてどちらの方が悪いのか。科学者と戦争のあり方、距離。軍人にとっての戦争とは何なのか。そんな中で見えてくる人間の善と偽善。倫理とはどこに置けば良かったのか。
様々なことを交えながら、作品の世界が描かれていく。
テーマとしては重いものを扱っていて、文章としても硬い。舞台を紹介する用語で読み難さを感じる。特殊な数学物理用語、軍事用語にはそれほど解説が入らないので、より楽しむならある程度の知識は必要だろう。けれど、それで楽しめないということはない。むしろここは流す程度でよい。
空戦だったりのエンターテインメントもしっかり押さえているし、登場人物が物語から一種浮くように作られていることもあって、ラブコメ要素からキャラクターが楽しめる作品でもある。
そういう取っ掛かりから、物語の核となるところを読ませているのは上手い。読書中に考えさせられることが大なり小なりあるとだろう、読後感もさっぱりしていて良かった。
面白かった。
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