ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫) [感想]
第9回SD小説新人賞 大賞受賞作
戦争が終った世界に残る、さまざまな形の爪痕。その一つが魔法で動く戦車であり、戦争が終った今も未だに稼動し続け、被害が絶えることはない。物語はこの戦車から街を守る戦車乗りたちの活躍を描き、少女ニーナの成長を描く。
安定感があるなと感じた。新人さんと思えないくらいに物語が安定していたし、戦争というキーワードで物語を膨らませていた。その分、変化球ではないのだけれど、作品の根幹に関わらないちょっとした部分で楽しませてくれるのは上手い。
序盤、ニーナは生きるために食料を盗み、町を転々としていく。お腹が空いたら盗み、飢えをしのぐ生活。そんなニーナは、ある時、盗み食いをしていて捕まってしまう。
ニーナを捕まえた人間は、その町にある私立戦車隊ラビッツのメンバーで、彼らは日夜、戦災である野良戦車と戦っているという。何故かニーナもメンバーとして戦うことになる
ニーナが何故盗みをはたらいていて、町を転々としているのか、生い立ちを振り返りながらの流れは良かった。ニーナが抱える思いと、戦争が残した被害。
戦車乗りは嫌いだと言っていた少女が、自ら戦車に乗り町を守り、仲間と笑いあうようになるまでになるということ。
また、ラビッツのメンバーに後々判明する生い立ちが痛々しいのだけれども、彼女たちもそれを乗り越えてここにいて、癒されることはないけれど頑張っているということ。
ニーナにしてもメンバーにしても、それらが見せ掛けの平和からのものだとしても、それを享受出来るようになったというのが素敵だった。
戦争から復讐がどうのという部分に物語を持っていったのも、ありきたりではあるけれど、分かりやすくて良かったし、キャラクターの真っ直ぐさが出ていて清々しい。
物語が戦争後の世界ということで憂鬱で暗さがあるのだけれど、そこに生きる人たちが明るいので、それらをあまり感じさせなかった。文章も読みやすく、手堅い。
面白かった。
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- 作者: 兎月竜之介,BUNBUN
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/09/25
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