コロージョンの夏 (講談社BOX) [感想]
第2回 講談社BOX新人賞 Powers受賞作
マガミシリーズ第一弾。
黒姫カノンを筆頭に、登場する女の子が全員可愛らしかったです。あとがきで言われているキャラクター小説という意味に納得。
カノン、十夜、セラ、凛、この四人は主人公に好意を懐いているので、それぞれが好きですオーラを出しまくりで猛プッシュしているのだけれど、鈍くて気付かない草太郎、という図が終始展開される。
カノンなどは感情のふり幅が大きいので、彼女の言動を読んでいるだけで何だか楽しい気分になる。主人公に素直になれない、直ぐに嫉妬する。セラは発言がもう面白いので、存在しているだけで楽しい。この二人が個人的には好き。
主人公の性格は基本的に変わらないが、相対する女の子で微妙に立ち位置が変化するので、そこで交わされるテンポの良い会話が楽しい。
もっとも、この一連のキャラクターの会話での面白さ、というのは本筋にはあまり関連がないのだけれども。それを言ってしまうと、そもそも、物語に意味がない。
これは読み手の解釈によって大きく変わってくると思うのだけれど、比喩的な表現で作品すらも皮肉っているところが面白いなと感じた。
普段目にするメディアにて、悲惨な事件、戦争、テロ、これに順ずる報道を見て、何か行動を起こそうと思ったり、思想的に何かが変わる経験をしたことがあるか? みたいな話を作中で誰かが言う。
それこそテレビにしろ新聞にしろ、メディアでそれらは日常的に報道されているわけで、けれどそれらはニュースという一括りにされた挙句、何事もなかったかのように次の番組やページに進む。軽く流され、流しているし、そんなことがあったのかと納得するだけ。
それが普通で当たり前なのだけれど、それこそおかしくないだろうかと切り込んでいるのがこの作品。
人間の意識、または読者自身を映すファクターとしての、主人公である真上草太郎。右翼的な思想、思考を擬人化したような鴉堂院十夜。左翼的な思想、思考を擬人化したような蜂王寺セラ。日常という意味合いを持たされた鯨辺兄妹。
物語を通して、マガミと一緒に革命しようとして進化しようとする。現状の自分と、そこから選ぶ選択肢はどこなのか。むしろ選ばなくてはいけないのか。文章で表現することは難しいけれど、主人公と読み手をすり合わせて読んでいく行程に、蜂男で表現されるモノ、そこから見えてくるコト。現状維持しようとしているのは現代の空気っぽい。
フィクションを読んで変わるかと問われれば、変わらないだろうし、現状維持と答えるだろうけれど、作中でいっそ清々しいほどにそれをネタにしてしまったのは勝ちだと思う。
Presented by Minai.
- 作者: 新沢克海
- 出版社/メーカー: 講談社
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