カナクのキセキ1 (富士見ファンタジア文庫) [感想]
第22回ファンタジア大賞 金賞受賞作
千年前、魔法を世界に広めた魔女マール。彼女は現代において信仰の対象になっており、彼女が残した4つ石碑を巡る旅に出ることは崇高な行為とされていた。昔から神官になりたいと思っていた主人公のカナクは、学校卒業と共に石碑巡礼の旅に出ようとするのだが、そこに同じく卒業した美少女ユーリエが一緒に行くと言い出して、何だが二人で旅に出ることになる。
巡礼の旅なのだけれど、それがとても明るくコミカルに描かれているので読んでいて楽しかった。ユーリエはカナクが密かに恋心を寄せている相手なので、二人で旅をすることにドキドキが止まらない。
カナクに映っていたユーリエという女の子の本性が見えてくるのも面白くて。完璧な彼女が、実は我儘だったり常識がなかったり、様々な角度で可愛らしさが見えた。それはカナクに対して彼女が気を許しているという表れにもなっているので、読んでいて微笑ましくも映る。
ユーリエというキャラクターで場が明るくなったり焦ったりする。彼女が物語のテンポを終始にぎっていることで、石碑の意味が分かったときの反動がそのまま作品の魅力になる。
ただ、巡礼の旅をもっと読みたいという気持ちが先行してしまって、味気なさというか物足りなさは感じてしまった。テンポよく進んでいくのは良いのだけれど。
正直、そこはもう少しゆっくり読みたい、というところまで省略されてしまうので気持ちが悪い。一つの石碑に時間をかけることが出来ないのは分かるけれど、出来ることならもっと読みたかった。
――そして、終盤の展開に呼吸が止まる。
人々と出会い、旅を続け、カナクとユーリエの関係が変わっていく。読み終わったときに、初めから物語を思い出しつつ余韻に浸る。読み手の頭の中で文章が組みあがることでしょう。
切ないけれど、これは良い物語です。面白かった。
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