ひがえりグラディエーター (電撃文庫) [感想]
謎の少女アールに異世界に導かれた天海蔵人。何でも、異世界では人間を拉致してきて戦わせるという「娯楽」が流行しているらしく、蔵人はそのビジターに選ばれ戦うことに。
――行方不明の妹は異世界にいるのではないか。戦うしかない。
ゲームとして殺し合う、物語の中でその辺りが示されるのだけれど、蔵人の人柄もあってなのか、物語が始まったばかりだからかそこまで重くなく、マイルドに受け止められる。けれども、冷静になると途端に理不尽で怖い。
ビジターに選ばれてしまったら最後、その人間に戦う意思がなかろうが戦いは避けられない。つまりは勝つか負けるか、そのどちらかしかない。肉体は強化されているとはいっても痛いことには変わりないし、そもそも肉体を弄られているという時点で気持ち悪い。
昼間は学校に通い、夜からは異世界で訓練。
アールは蔵人の日常に配慮してくれたり、娯楽としてのゲームの説明、訓練や戦いのアドバイスはしてくれたりするのだけれど、ビジターに選ばれているところでそれが優しさかどうか微妙なラインだ。そういう意味でも、節々で異世界と日常の世界は違うのだなと印象を受けた。
今回は物語の始まりということで、ビジターとしての訓練と初戦が行なわれるまでが描かれていく。相手が死なないまでも、傷つくことは確か。それはお互いに同じだけれど、そんな純粋な恐怖といったらない。
傷つけることが怖いし、傷つけられることが怖い。
やらないと勝てないが、ナイフで相手を刺すなど日常ではないし、相手を銃器で撃つなど日常ではない。また、この辺り世界にはそれが日常で直ぐに適応する人間もいると描かれているのだが、それもまた確かで悲しい。
面白かった。著者の文章は相変わらず上手いですし読みやすい。まだ始まったばかりなので、続きが出たら読みたいのだけれど、出るのだろうか。
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