アトリウムの恋人 (電撃文庫) [感想]
仮想世界「東京スフィア」へのチケットは何を舞い込むのか。
著者のこれまでの作品の特徴としてゲーム性、心理戦があったと思うが、今回の作品ではそれが抑えられている代わりに恋愛方向を膨らませていた。とはいえ、仮想世界と現実世界のやり取りが多いので、どこかデジタルを感じる雰囲気は変わらない。
主人公の前田は、これまであまり話をしてこなかったクラスのアイドル遥花に突然声をかけられる。身に覚えのない東京スフィアへのチケットについての相談を受け、サークルまで設立して誘われる。
遥花は純粋に仮想世界のことを知りたがり、前田は乗り気ではない。何故そこまで遥花が仮想世界にこだわるのか、前田も乗り気ではないのに遥花のことを優先させて、サークルメンバーを仮想世界に導く。
お互いが何のために仮想世界に行くのか。目的が隠されている雰囲気があり、それが中盤以降に明らかになることで登場人物たちの言動の理由が判明していく。そんな流れが表現する空気感が綺麗だった。
ストライカーやSSなど、仮想世界独特の単語もあり、戦闘描写もあるのだけれど、それは物語を盛り上げるアクセント。前田は単純に遥花を取り戻したいだけで、仮想世界と現実世界の彼女を助けたいだけ。一人の女の子を想う前田の意識が変化していくのが良かった。
序盤では遥花から距離をとっていた前田だけれど、彼の気持ちも分かるだけに辛いのだ。仮想と現実、どちらも彼女は彼女。最終的にどこに落ち着くのか読んでもらいたい。
しかし、綺麗に終わっているけれどシリーズとして続くのかしら。面白かった。
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- 作者: 土橋真二郎,植田亮
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/05/10
- メディア: 文庫
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