オブザデッド・マニアックス (ガガガ文庫) [感想]
大樹連司さんの新作。
授業中、もしここにゾンビが襲ってきたら――。ゾンビ映画マニアの安東は日夜そんな妄想を繰り広げているのだが、クラスメイトと嫌々参加した合宿で、奇しくもその妄想が現実のものとなる。
ゾンビハザードが現実に起こったときにどのように対処すべきなのか。危機的状況なのだけれど、本物のゾンビから逃げるという体験に興奮している安東が面白い。ここぞとばかりにヒーローになるべく活躍しようとするのだが空回りしていくので、生死を賭ける状況にも関わらず周りのキャラクターとも相まって物語の雰囲気は明るかった。
序盤などはいきなりゾンビが現れるので、何が展開されるのか、安東の興奮ぶりとコミカルテイストな雰囲気に馴染めるか不安を覚えるのだが、話の本質が見えてくる中盤以降は物語に引き込まれる。
高校生とゾンビは似ている。
学校へ行き、勉強し、友達としゃべり、放課後はどこへ行くかで悩む。ルーティンワークのように同じことをしていると安東は言う。それは人間を見つけたら襲い、食らうゾンビとどこが違うのか。見事にクラスメイトをゾンビに例えて学校生活を表現していた。
ゾンビは登場するけれど、やはり描くのは著者らしい青春。
学校に存在しているカースト制度。いじめる者といじめられる者。学校という空間は少し特殊で、誰もが周りに合わせようとする。学校では普通であることが求められ、共感できることが求められ、そこに個性やらマニアック、マイナーは受け入れられない。毎日が生き残りをかけた戦争だ。
ゾンビハザードという危機的状況下で、それが逆転する。ゾンビから身を守るためには特殊技能を持った人間こそが必要で、今までカースト上位にいた特殊技能を持たないリア充達はいらなくなる。下層民として惨めな生活を送る元カースト上位組を目の当たりにして、復讐を果たしたと思いつつも、自分達がいじめる側に回って同じことをしているとだけだと悩む安東が良い。
皆をまとめようとする委員長と、その行き過ぎた統制に唖然とする安東。ゾンビは好きだが、今の状況には納得できないと、エンドロールに向って直走る安東は格好良かった。非日常より、日常を生きろ。
この人の描く捻くれた学校生活は面白い。楽しませてもらいました。
Presented by Minai.
- 作者: 大樹連司
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/12/17
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