Infinity recollection

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アトリウムの恋人〈3〉 (電撃文庫) [感想]

アトリウムの恋人〈3〉 (電撃文庫)

 

著者の持ち味は頭脳戦や気持ち悪く緊迫感のある心理描写だけれども、アトリウムは少し異なったアプローチをとっているので、内容がドロドロしていなくて明るい。テーマを読み取れたときに、なるほどね納得できるが、ゲーム性を求めて読んでいる人からすると物足りなく感じるだろう。

 

仮想世界と現実世界。

 

東京スフィアをクリアしたはずが、知らない間に仮想世界に迷い込んでいる。現実と仮想を行き来しながら、描かれていく物語は一種パラレルワールド的。一方の世界では淡々と楽しい夏休みを過しているのだけれど、一方では壮絶な生き残りをかけて戦っている。

 

記憶が持ち越されるわけではないので、漠然とした焦燥感と虚無感だけが、現実の登場人物たちの精神に影響を与える。何かおかしいと思い、無意識に涙したり相手を想うばかりに感情が爆発したりするけれど、記憶がないからどうしてその言動をしたのか分からない。

 

果たしてどちらが本当の世界なのか。キャラクターたちも考えたことだろうし、読み手も考えさせられた。けれど、最後まで読んでいくと、どちらの世界も本物で彼ら彼女らが生きていたことには変わりないことに気付かされる。どっちがとかではなく、どちらも。

 

そう考えると、儚くも美しいお話だったのだなと。読後感が綺麗だ。しかし、どうしても頭脳戦や狂気のゲームに魅せられてしまっている身としては、味気なく感じてしまうのですよね。

 

 Presented by Minai.