Infinity recollection

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サイハテの救世主 PAPERI:破壊者 (角川スニーカー文庫) [感想]

サイハテの救世主  PAPERI:破壊者 (角川スニーカー文庫)

 

天才とは果たして何なのだろう。

 

主人公の沙藤葉は、アメリカで賞賛を浴びた天才で、沖縄にやってきた理由は未完成の論文を完成させるため……だと本人は言っている。自称天才の彼と、南国の地で出会うことになる少女たち、陸や照瑠との交流が描かれていく。

 

――描かれていくのだが、一筋縄ではいかないのが著者らしい。前半はマッドサイエンティストの葉の言動がいかにもおかしいので、天才とバカは紙一重という言葉を体言したような内容となっていてコミカル。本当に天才なのか、と読み手も疑問に思いながらキャラクターと一緒に世話を焼く。そういう奴らしいからしょうがないなと、温かい目で見てしまうのが、ふと俯瞰したときに面白かった。

 

なので、葉が人間らしさを身につけていく話かと思わされるが、後半からは葉が本当に天才だと判明する。ここから一気にシリアスになだれ込み、ドロドロと頭をかき回しにくる怒涛の展開が待っているので、読みどころだ。

 

天才とは、英雄とは、周囲が言い始めるもので、本人がなりたくてなるものではないのではないか。誰も天才になろうとは思っていないし、英雄になろうと思ってもなれるものじゃない。それら全て未来の人間や結果の後についてくるもので。天才も英雄も一人の人間には変わりない。孤独を感じている葉の姿に、そんなことを考えさせられた。

 

岩井恭平さんの新作ということで、どうしても消閑の挑戦者と比べてしまうわけだけれど、キャラクターが個性的で面白いのは流石でした。ただ、個人的にはもっと陸との絡みが直接的に物語の根幹になっているのかなと想像していただけに、終り方に呆気なさを感じてしまったのが正直なところ。

 

文章が気持ち悪いほどに読みやすいのは流石です。だからこそ、前後半で急に方向転換されたものだから、まとまっているのに読みたいところが読めてないなと。胸につっかえたように物足りなさが残ってしまった。

 

 Presented by Minai.