Infinity recollection

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楽園島からの脱出II (電撃文庫) [感想]

楽園島からの脱出II (電撃文庫)

 

下巻。

 

作中で抑えられていたものが、あらゆる意味で開放された。著者らしい目を逸らしたくなる極限状態での人間心理、駆け引き、騙し合い。高速で流れすぎていく感情の渦に、キャラクターの力関係や立ち位置が何度も入れ替わる。

 

先の展開を予測していくことは誰にも出来ないような混沌とした楽園島の姿に、社会の縮図が見え隠れした。

 

男子生徒と女子生徒は人種の違いのようにも映るし、ハーレムを形成してのパワーバランスは戦争を繰り返す世界の国々そのもの。選ばれた男子生徒数名だけが国家を形成し、戦うことが出来る。けれども、核兵器となる女子が力であって、あくまで男子は国家を代表する象徴にしかなりえない。大臣をお飾りとした官僚制のようで、お互いのカードを切りあう姿が印象的。

 

そこから少し視点を離してみると、奴隷と成り下がった男子がいて。彼らと女子の関係性は、開発途上国と先進国の差や、低所得者と特権階級の差のようだ。普段は社会の中で目を逸らしていることが、楽園島という小さな閉鎖空間の中で突きつけられているようだった。

 

唯一、檻の中でゲームを放棄した人間だけが、俯瞰して見れていた。けれども、檻に入り無関係になるということは死んでいると同義だ。神の視点を得たようでいて、ただの死人に成り下がったとも言える。ゲーム画面を眺めるだけで現実逃避している姿が脳裏に映しだされた。

 

著者の作品は普通に読めばダークなゲーム小説として読めるが、毎回様に別で受け取れるものを入れ込んでくるのが面白いですね。さて、作中では他作品との繋がりを仄めかすような描写もあって、益々楽しみなのだけれど、その辺りはどうなのでしょうね。

 

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