いなくなれ、群青 (新潮文庫nex) [感想]
河野裕さんの新作となる階段島シリーズです。サクラダリセットの透明感だとか綺麗な文字に惚れた一人なので、今回の新作も期待して読みましたが、流れてる空気が澄んでいました。作品の世界が11月なのでその影響もあるのかもしれませんが、登場人物たちが白い息を吐きながら喋っているイメージの中、階段島の淡い冬の風景が美しい。
ミステリーといいつつも青春小説。
階段島には救えない大いなる秘密があるわけだけれど、悲観主義者たる主人公が一瞬だけ仄めかしたように、彼はその謎に誰よりも近づいていた人間。けれども、悲観主義だからこそ諦めてしまえるし、それでもいいと思えていた。そう考えられてしまうというのも寂しいのですが、読み終えてみれば彼の人間性をよく表していた様に思えます。
由宇の真っ直ぐな正義感と真理を当たり前につくことが出来る強靭さへの憧れと羨望を抱いている主人公にとって、由宇は光みたいな存在。その由宇がやって来たことで、どうしようもなく動揺してしまう。その時点では感情の説明がつかないけれど、読み終わってみると主人公と同じように氷解している。
起承転結と読み終えた時に全てがつながるので、読後感には繊細な調和がありました。
激しい展開があるわけではなく淡々と話が進んでいくのですが、登場人物たちの台詞が見事で完成されていて。誰にどれが刺さるのか分からないけれど、読んだ人にとって読んだ後も忘れられないフレーズが必ずあるはずですし、パズルのピースが揃うかの様で気持ち良い。
シリーズ前提のようですし、続きが楽しみです。