Infinity recollection

ライトノベルを中心に感想を載せているサイト。リンク+アンリンクフリー。

ガーリー・エアフォース (電撃文庫) [感想]

ガーリー・エアフォース (電撃文庫)

 

夏海公司さんの新作。「葉桜が来た夏」を彷彿とさせるようなボーイ・ミーツ・ガールに、ああこの作家さんなんだなと懐かしくなりました。葉桜が来た夏」を読んだ時には「イリヤの空、UFOの夏」を思い出したわけだけれど、本作はよりイリヤに近いだろうか。ヒロインが戦闘機で戦う、自衛隊に配備されているとか、そもそも戦闘機がヒロインというのは昨今の艦隊ブームにのっていて、SEのブラックさもそうだったけれど、時代を読むポジショニングで作品を書いてくるところは流石ですね。

 

異種間コミュニケートSFとか、SF空戦モノとか表現の方法はあると思うけれど、難しいことは何もなく、要するにボーイ・ミーツ・ガールで、そこは徹底している。ドーターとかアニマとか作中用語が出てくるけれど、グリペンとはどういう存在でどうやって作られたのか不明だけど、敵は何故攻めてくるのか分からないけれど、日本を守るよりも主人公を守りたいって方が分かりやすいし、ヒロインのことを考えて葛藤して走り回る主人公って方が感情移入しやすい。難しいことを考えずに、主人公とヒロインの関係性を楽しむ作品なのかな。

 

もちろん空戦シーンも読みどころではあるのだけれど、ミサイルあるけれどドッグファイトしないといけないのはご愛嬌。少し残念だったのは、グリペンの戦闘が擬人化戦闘機らしさがなかったことでしょうか。普通にパイロットしているようにしか読めないので、もう少しギミックが欲しかったかなと。単にコックピットに搭乗するわけじゃなく、そもそもコックピットは補助機関とか、擬人化されたグリペンは戦闘機モードだと粒子的な何かになって身体がなくなるとか。不思議さが欲しかったかなと。

 

作品としては一巻ということもあり、良くも悪くも抑えている。商業だから売れないと続刊はないわけで、出来るだけ内容を簡素化して無難さを出している。その簡素化にしても主人公が案内役として存在することで、何も分からない主人公と一緒に冒険している雰囲気があるのは親切ですが、丁寧設計であるが故に衝撃は少ないのがどうなのでしょう。例えば「イリヤの空、UFOの夏」なら徹底してSFの部分は隠していたことで、主人公とヒロインの関係性に、10代の少年少女にはどうすることも出来ない悲壮感みたいなものが漂っていたように思うし、ジュブナイルらしい「それでも何か出来るはず」という青春の香りを感じました。もっとも、結果としては逃げることしか出来なかったわけだけれど、それらは読んでいて衝撃として襲い掛かってきました。

 

ガーリー・エアフォースはどこに向かっていくでしょうかね。テーマとしては大好きですからまだ追いかけるつもりですけれど、これからF2とかF4は登場しそうなので、エヴァンゲリオンでアスカがやってきた様にユーロファイターとかミグとかが配備される熱い展開を想像しつつ、続刊はラストを見据えた美しい完成度を期待します。(欲張り)