Infinity recollection

ライトノベルを中心に感想を載せているサイト。リンク+アンリンクフリー。

FAKE OF THE DEAD (メディアワークス文庫) [感想]

FAKE OF THE DEAD (メディアワークス文庫)

 

土橋真二郎さんの新作。人間の心理描写と残酷ゲームを展開する作品が多い作家さんですが、本作はゾンビと演劇と精神疾患をキーワードに、サスペンス風味な作品となっており、期待していた物語とは違ってしまいました。

 

購入前にあらすじを読まなかったのがいけないのですけれど。全て読み終わった後であらすじを読んだので、余計に後悔してしまいました。というのも、あらすじに内容が全部書いてあるので、これならあらすじを読んでいれば買わなかったのかなと思ってしまったのですよね。著者の残酷ゲームや駆け引きが好きなので、それがないであろうことが想像出来ましたから。

 

そんな本作は、ゾンビと人間、狂人と一般人、現実と虚構、様々なパターンの境界線を描いて「果たしてお前はどっちだ?どっちが正しいと思う?」と読み手に問いかけてくるような構成になっている。劇場で展開されるのは茶番劇なのに妙な生々しさがあり、作品を通して徐々に地面に沈み込んでいく感覚は恐怖ではなく心を不安定にしてきたのには、一瞬だけ感心もしたのだけれど……。サスペンス「風味」が表すように、作品の設定上しかたないとしても緊張感や真剣みには欠けるので、読んでいて演劇だということに思いのほか引っ張られて心の置き所が中途半端になってしまう。現実の情報が入ってくるというのも、作品としてどこに向かっているのか不安にさせられてしまいました。

 

だからこそ、結末について「物足りない」というのが一番初めにきた感想でした。着地点を迷っていたらいつの間にか着地していたような終わり方で、明確にオチを決めてから筆を執ったとは思えない出来に映りました。オチを決めずに書いたとしても、最後まで何となく終わらせたように映ってしまい残念。

 

しかしながら、著者がゲーム的で閉塞空間ではない作品を描くというのは珍しいですし、むしろ初めてではないのだろうかとも思うので、次回作に繋がるような伏線なのかもしれませんね。もうゲーム的なお話を書かないとしたら非情に残念ですが、本作が新たな作品への扉になるのでしょうか。