Infinity recollection

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WORLD END ECONOMiCA (1) (電撃文庫) [感想]

WORLD END ECONOMiCA (1) (電撃文庫)

 

月面から見る景色は数式が描き出した美しく優しい少女の心か、はたまた螺旋になって積みあがった摩天楼の強欲か。この世の富が集まる人類のフロンティアで流れる少年と少女の青春活劇が与えてくる刺激は心地よくも儚かった。

 

株式投資をテーマに金融とは何か、富とは幸せとは何のかを考えさせてくれる作品ですね。基本的な金融用語から株式投資に関する用語を主人公のハルを通して楽しく解説しながら読ませてくれている。それもハルが感覚的に雰囲気で取引する投資を得意としている設定を活かしながら、ハルが理解している概念を噛み砕いて説明するという流れが作中では出来上がるので分かりやすいですし、ネット上で読むような株の基礎が分かるようになるので投資になるかは別にして取引の意図が分かるようになりそう。

元々は同人ゲームということで驚いたのだけれど、加えて、全3部作というのに更に驚きました。本作は700頁超あるわけだけれど同じような分量であと2冊あるとのことで、川上稔氏を彷彿とさせるような分厚さには一瞬だけ辞書かと見紛いそうになります。その分厚さに負けないように物語に引き込んでくる文章は流石でした。素晴らしいのは、作中での日数の経過と共に、キャラクターたちの関係を丁寧に変化させていくところでしょう。普通なら300頁ほどしかありませんから、もっと駆け足で関係を進める部分を主人公の精神面、ヒロインの精神面を説明した上で綺麗に展開させてくれますし、物語に2段階の変化をつける余裕がある。これはもう文章量に余裕があって適度に無駄があるからこと書けることですし、故に余韻が生まれるのだと思います。また、著者の文章は会話劇の切り替えしの面白さが特徴的だと思うのだけれど、他の作品と比べて会話が軽めの文体だと感じたのは元がゲームだからという部分に理由があったのですね。納得です。

 

しかし終盤でクリスの家族を救おうというところまでは許容出来るけれど、それ以降の大人たちが群がってきた展開は嫌いな人は嫌いだろう。いくら責任は取らない理由でお金を預かったとは言え「ハルとハガナとリサなら信用出来るから」と無責任に話が大きくなったのは、努力もせずに勝ち馬に乗ろうとしているだけに見えてしまう。もちろん各々に理由があるのだけれど、それを言ったらハルだって努力したわけで、そこを噛み砕けるのかどうかは読み手しだい。幸いにも、完璧に納得は出来なかったが、客観的に仕方ないかなとは思えました。(もう少し他の発展のさせ方があったんじゃないかなとは思います。)そんなわけで全体的には満足でしたし終わり方も「そこで終わるんだ」という終わり方なので、続きを読みたいです。あとは3月に余裕があるかどうかってことになりそうですね。何せまた700頁超あるのでしょうから。

 

WORLD END ECONOMiCA (1) (電撃文庫)