ゴールデンスランバー (新潮文庫) [感想]
仙台で行なわれた首相のパレード。その最中にラジコンヘリの爆弾で首相が殺されてしまう。仙台では犯罪抑止として、独自にセキュリティポッドというロボットが絶えず町を監視しているのだが、その映像から容疑者として浮かび上がったのは、数年前に暴漢からアイドルを救ったことで時の人となった青柳雅春だった。まるで身に覚えのない青柳だったが、マスコミの報道、警察、世の中全てが青柳が犯人だとして動いていて――。
何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。
首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳の逃亡劇を描いているわけですが、読み進めるごとに、得体の知れない大きな力に操作されているという恐怖が伝わってきた。
マスコミがそう報道しているから犯人だろう、警察の人もそういっているから犯人。思わず中学生のときに先生から言われた、テレビでの報道や新聞をそのまま信用しては駄目だ、という一言を思い出した。そんなことは皆分かっているけれど、分かっていないのだ。
序章では、事件の始まりや、事件をテレビの前から眺めている視聴者が描かれていくが、あれだけ報道されてしまうと犯人だと思わざるを得ない。違うと言う方が勇気がいるし、報道を漫然と受け止めるだろう。
これが中盤での青柳の視点になると濡れ衣だと判明し、恐怖が残るのだ。
けれど、冷静に考えると、首相が暗殺されるという大事件にも関わらず、犯人が翌日に判明するなどありえるのか。それも犯人の詳細な情報までもが公開されている。何かがおかしいと感じる。そこが怖い。
友達と仲間に救われる。背中を押す森の声が心強い。
青柳は森田に忠告されて逃亡できたが、森田の行動がなければそのまま捕まっていたに違いないし、ケネディ暗殺を引き合いに出しているように、オズワルドになっていたはずだ。
そういう意味でも、友達に助けられていくという展開が熱い。これまで付き合ってきた人間が青柳のことを影から助けてくれる。作中では、森田に言われた「人を信頼する」ことをそのまま実行している青柳がいるけれど、不安になりながらも信頼できてしまう青柳は凄いですし、そういう人間だからこそ青柳を知っている人間は彼を助けてくれる。
群像劇のようにそれまで登場したキャラクターたちが青柳を助けるべく行動していく姿が良かった。自分の周りにはそこまでしてくれる親友がいるだろうかと思わず考える。また、終盤になって伏線のピースがかみ合っていくのには興奮した。
――そして最後の演出たちには泣いた。面白かった。
Presented by Minai.
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/11/26
- メディア: 文庫
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