羽月莉音の帝国 8 (ガガガ文庫) [感想]
究極の金儲け法。
ロシアとの経済戦争を何とか生き残った巳継たち革命部グループだったけれど、国際商業銀行の資金は底をつきかけていて、グループ内で帳尻を合わせるような状態。毎日二兆円ほどが借金として消えていく。このままでは経営破綻が待っているので、何とか新事業を起こしたいが、一瞬で数兆円の儲けを出すようなビジネスはこの世界に存在しない――手詰まり感が漂う中、破綻の危機を一人のジャーナリストに嗅ぎ付けられてしまう。
いよいよ行くところまで来てしまいました。お金が紙くずに見えるほど天文学的数値のお金を所持しているのに、お金が足りない。ここまで来てしまうと、お金がありすぎて投資する場所がないばかりか、儲けようと思っても逆に儲けられない。
けれども止まるわけにはいかない。止まった瞬間に革命部グループは破綻ですし、巳継たちの将来が消える。まさに未来を担保にしているようなものなので、失敗した瞬間に再起不能なとこまで落ちるばかりか、周りも道連れです。
物語でやっていることが地味だったけれども、実はこれまでで一番の危機だったのではないだろうか。命を狙われることより深刻だったような気がします。なので、経営破綻の危機から脱出する方法には度肝抜かれました。
――スーパーインサイダー。
ユーロネクストやナスダックと同じような株式市場を作ってしまえばいい。一企業が証券市場を管理するという途方もないことをやらかす。確かに企業情報、経営方針などは真っ先に見れる立場にいるわけだけれど、言うたら詐欺だ。真っ先に情報を見て、誰よりも早く情報を分析し、それを市場に公開。柚さんの作成した証券売買プログラムが公開と同時に分析した内容によって株式を売買する。スタートダッシュを誰よりも早く決めるという、まさにスーパーインサイダー。
柚さんの力が大いに関係しているわけだけれど(数学的に値動きの変動値をそんな完璧に計算できるのかは置いておいて)、これは凄い。究極の金儲けに相応しい壮大なものとなりました。中盤辺りまでは金儲けしようにも出来ないと、陰鬱な雰囲気だったのが吹き飛びました。何もしなくてもプログラムが一日に数兆円の儲けを出してくれる。
また、今回は正義のジャーナリストとも平行して戦うことになるのだけれど、巳継が暗殺という最後の一歩を踏み出さなくて本当に良かった。お人よしと言われればそれまでだが、巳継はそれで良いと思う。個人が巨大な力に対抗することの無謀さが見えた。ジャーナリストの立場からすれば、途方もない圧力と恐怖だったのではないかしら。何だが、彼が主人公の話も読みたくなってきた。
そんな具合で大いに楽しませてもらいました。面白かった。経済の頂上まで来てしまったと思うので、これからどうするのか続きが気になります。
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- 作者: 至道流星
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