ディストーションの秋 (講談社BOX) [感想]
マガミシリーズ第三弾。
秋とは変化の季節。――本の装幀まで変わってしまって、シリーズを並べたときに少々不恰好といいますか、揃っていない感が残念なのですが、これは物語と関係ないので置いておきましょう。けれど、確かに物語に変化は起きている。
草太郎が草太郎であることを認めました。自分の主人公としての体質と向き合い自覚することで、力を使うことに躊躇わなくなった。彼は特殊な力は何もないというけれど、人を惹きつける魅力があって、他人の力を借りることができるというのは十二分に力だ。
物語と人生の違いとは。
そんな話が作中で語られる。現実と空想と言い換えてもいいけれど、その線引きは感じ方によっても違ってくるのかなと。物語では奇抜なことや一見してエンターテインメントなことが起こるけれど、人生はそうでもない場合もあるし、小説よりも奇なりといった側面も持っている。
物語にしたってそれは書き手の描写に頼ることになるので、何も起こらない物語も存在する。何も起こらない物語は物語とは言い難いし、それは日常に近くて人生に近い。物語の中で生きているキャラクターにも目を向けてみたりすると、そこにも物語と人生があるわけで、視点によっても見え方は変わってくる――思考がめまぐるしく変化して、哲学的にも受け取れました。
この力は受験には役に立たない――これは作中での探偵の言葉だが、物語中での人物の人生を印象付けられた一瞬でした。特殊能力をもっていて物語に関わっていても、日常が存在していて、そこには力が使えない。自分の中で境界線が一気に曖昧になって宙に浮いたので、やられたなと。終盤までを読んで始めて思うところが出てくる一言ではないだろうか。
ふと、草太郎が認めたように、彼は自分の物語を始めたが、読み手の人生とは果たして始まっているのかと、そんなことを考えてしまいました。
相変わらず、キャラクターの描き方は抜群です。人が大勢死にますし、二つ名持ちによる戦いが起こるけれど、話のメインはそこではないのも楽しませてもらっている。やはり自分は十夜が好きなので、彼女が草太郎と関わる話をもっと読みたい。次は彼女を鴉を主軸に描いてもらえると嬉しい限り。
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- 作者: 新沢克海,05
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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