Infinity recollection

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俺の教室にハルヒはいない (角川スニーカー文庫) [感想]

俺の教室にハルヒはいない (角川スニーカー文庫)

 

新井輝の新作は青春学園モノ。

 

僕らの教室にハルヒはいない。アニメ的漫画的特撮的な展開は僕らの日常にはないのだから、それは当たり前ではあるのだけれど、誰もが通った通るべき思春期に展開されている日常というのは、当人たちが感じていないだけで素敵な非日常かもしれない。

 

本作は至って普通の高校生ユウを主人公に、中学で疎遠になっていた幼馴染カスガが声優を目指していることを知り、応援すると約束するところから始まる。ここに、偶然出会うことになる脚本家マコトやその友人たちと接することで、徐々に彼らの物語が動いていくことになる。

 

お人好しでお節介で気配り屋。

 

前述の通り、至って普通の高校生ユウを主人公に展開されていく物語ではあるのだが……、そもそもユウが、宇宙人や未来人や超能力者や異世界人でないだけで、普通の人ではあるが普通ではない。

 

それは相手の領域に自然と踏み込んでいける強さであり、相手の話を聞いてあげる相手に合わせることが出来る器の大きさ、意見や価値観を否定しない人間性、もしくは単純に天然であることであり、精神的に大人であるということだ。

 

そして一番大切なのが、ユウは行動するということ。それも自然とそうするべきだからそうするという基準で行動する。疲れたからとか、面倒だからとか、具合が悪いとか、誰もが考えてしまうことを考えないで相手に応えるし、自分で無理だと思ったら誠意を持って断る勇気も持っている。女の子が悩んでいたら悩みを聞くし、人が困っていたら助ける、見ず知らずの人間の輪に放りこまれても相手に合わせる度量があり、何よりも相手に何かしら興味を持つことが出来る。

 

主人公とは主人公になるべくして主人公なのだなと、一人の友人のことを考えながら、ふと思った。

 

だから、凄く好感が持てる主人公だ。普遍的で我を出さずに苛立つことをしないなら、好感がもてるのは当たり前なのだけれど、ユウの場合には作品の中で生きている錯覚を覚えるし、無理をしてないように映るので息苦しくない。彼のスタンダードがそれなのだと納得できる。

 

丁寧に描かれていく物語が魅力であり、文学的な雰囲気からは青春の匂いがした。

 

ユウを含めて周囲のキャラクターの背景や状況をゆっくりと描いていくのだが、退屈するなどという暇はなく、ただただ構成の美しさに魅せられた。配置してある文章がどれも素晴らしく綺麗なので、作品が頭に吸い込まれていくように読める。

 

また、際立っているのが、ユウを案内役に描くことで、彼自身がアニメや声優に詳しくない為に、周囲から一緒に知識を補完できますし、知っているなら別の楽しみ方も出来る。あくまで一連のネタは入り口でしかないので、物語に一気に引き込む一つの欠片になっている。

 

中盤以降、汐留アスカが登場したところからが、本作の一番の読みどころだ。作中でユウと清澄が語っていたのもそうだけれど、序盤からどうなるのかワクワクしていた物語にうっすらと着地点が示されるので、描きたいのはそういうことなのか、でもどうなるのと。更に期待を膨らませます。

 

美しすぎる物語の構成には、つい読む手が止まらなかった。タイトルで避けたり、あらすじでオタク系ラブコメを想像して避けた人は是非とも読んでもらいたい。

 

  Presented by Minai.

俺の教室にハルヒはいない (角川スニーカー文庫)

俺の教室にハルヒはいない (角川スニーカー文庫)