マグダラで眠れ (電撃文庫) [感想]
支倉凍砂さんの最新作ということで購入。著者名でこれだけ安心して買えてしまう作品というのも、実は珍しい気がします。期待度は最初からかなり高かったわけだけれど――。
フェネシスの可愛らしさにやられた。
聖歌隊からの監視役として、クースラたちを見張るためにやっきた彼女なのだけれど、とにかく素直。クースラの言葉に翻弄される一挙一動が実に可愛らしい。修道女なので常識も曖昧な中での監視となるので、常にクースラの手のひらの上。
キャラクターを描くのが相変わらず上手いですし、駆け引きも面白い。
クースラにしても、フェネシスのことを監視役として煙たがってはいるのでしょうが、あからさまに態度に出すことはしていなかったし、何だかんだと面倒を見ようとしている様が楽しいですね。放ってはおけない性格なのだろうし、無意識化でフェネシスを意識していることが窺える。
何より、監視役にすら、自分たちが生きがいにしている錬金術というものを知って欲しいという心が見えた。そういう意味では、錬金術師だからと忌み嫌われることもあるからこそなのかもしれない。君たちが嫌っている錬金術は、実はとても素晴らしい技術なんだと。
物語は、前任の錬金術師トーマス・ブランケットが編みだした高純度の鉄の精錬方法をめぐり、何故トーマスは暗殺されたのかの謎に迫るものとなっている。その中で、クースラとフェネシスの生き様と繋がりが描かれていくのだが、読むと心が温かくなります。
錬金術にしても、中世ヨーロッパの錬金術を描いているので物理や化学の知識があると更に面白い。ファンタジーとしての錬金術ではなく現実にある方法を使っているのが、作品の魅力の一つとなっている。一度、作品の世界に浸ってしまえば、そこはもう中世の町並みが想起されますから、読んでいて実に心地よい。この辺りは流石は著者だなというところでしょうか。
また、作中の一説に、教会は現世こそ最悪で、祈れば死後の世界で天国にいけるというが、錬金術は現世の暮らしを豊かに夢を現実にしてしまうから嫌われる、というようなことが語られるけれど、これにはなるほどなと思わず納得してしまいました。錬金術師とは何なのか、ご一読あれ。
物語はまだ始まったばかりですから、これから楽しみ。面白かった。
Presented by Minai.
- 作者: 支倉凍砂
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/04/10
- メディア: 文庫
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