Infinity recollection

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葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫) [感想]

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)

 

平行世界の彼女、どちらかを選ばなければいけないとしたら――。

 

タイトルにシュレーディンガーなどとつけられてしまったら、これはもう買うしかない。一目でSFなのだと分かりますし、表紙も青春している雰囲気が出ていて好きですね。中身の方も、けして裏切らない青さが素晴らしかったです。

 

パラレルワールド。

 

主人公の葵は眠るのが趣味のやる気のない学生なのだけれど、生まれたときから平行世界を行き来しているという秘密を抱えた少年。彼の日常というのは朝目が覚めて、今日はどの世界にいるのか確認するところから始まり、どう平凡に一日を過ごすかに集約されている。

 

人と関わらないようにして生きることが上手くなる。

 

ここに、それぞれの平行世界での幼馴染二人が関わってくることで、物語は動くけれど、そも葵にしてみれば、常に意識していられるのは片方の幼馴染だけなので、別世界にいる自分が、彼女たちと昨日何をして何を話したかは分からないし、今現在にしても別世界の自分が何をして何を話しているのかは分からない。漠然と同じ考えをもっているのだし、今まで行動原理が同じだったからそうだろうという予想と、未来での応え合わせしか出来ず、けして記憶を共有することはない。

 

あまつさえ幼馴染といいながら彼女たちと共有している時間というのは単純に1/2でしかないわけで。そこに共通した思い出だって1/2だ。もちろん、彼女からの視点では、葵は常にその世界にいるのだから、ずっと一緒にいるという感覚が当たり前なのだろうけれど。葵からしたらそうじゃないのだ。これは心に来る。葵はそれを口にしないけれど、切ない。

 

そんな「もどかしさ」を常に物語が抱えているのが魅力的だ。

 

世界観と設定からしても、もどかしいのだけれども、青春しているもどかしさが実に羨ましい。学生らしさというのか、葵は幼馴染がどちらも大切だけれど、その大切だと思う理由までは気づいてない。だから選べといわれても困るし、どうしてそう思うのか整理がつかない。

 

もどかしさを抱えたまま、中盤から終盤になだれ込んでいく感覚は気持ちよくも気持ち悪い。葵と同じように漠然とした焦燥感と恐怖心に背中を叩かれているような、けれども変わっていく葵と、変化している自分に気づいていく葵と、がむしゃらに素直な答えを見つけようとするのは青春でした。

 

どちらかじゃなく、一貫してどちらもというスタンスを貫いた葵。そんな葵は、確かに他の葵とは違う葵なのだと。思えば、読み手から観測できる葵は常に最初の一人だけでした。物語にある葵が何人もいるという不確定なもどかしさはあったけれど、読み手が観測していたのは最初の一人だけですから、その辺りもよく作りこまれていて上手い。

 

青春なSFが読みたい方は是非。

 

  Presented by Minai.

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)