虹色エイリアン (電撃文庫) [感想]
虹子め、泣かせるんじゃないよ。年齢を重ねるごとに涙腺が弱くなってきている気がするけれど、それにしても良い涙を流させてくれる。ひやむぎはそこまで好きじゃないのに食べたくなったじゃないのよ。作中に流れる季節は夏だが、その茹だるような暑さを従えて、読ませてくれるのは切なくも爽やかな異種間コミュニケーションであり、宿主と寄生体との明日を見つける旅であり、偶然に地球が救えちゃうような青春模様であり、脳裏に強烈に残る初恋である。特に「瞳が虹に満ちれば」は最高でした。宇宙人とのぎこちない交流の中にあって描かれる変化と、カナエと一緒にアドベンチャーしてる雰囲気が大好き!(一時も大冒険はしてないんですけどね?そう感じられるほどに高揚して先が気になってしまった。)
挿絵が章ごとの扉絵くらいしかないのも素晴らしくて。全てこちらの想像に任せてくれているから短編なのに体感時間というか物語に陶酔する様な濃密な時間を味わうことが出来た。そういう意味ではライトノベルっぽくない。作品として最良の選択だったと思います。
これぞ著者の真骨頂とでも言うべきおかしなキャラクターたちに案内されて、とても楽しい時間を過ごさせてもらった。地の文からしてそうだけれど、著者の描くキャラクターたちの台詞回しは楽しいのですよね。台詞のチョイスというのか、言葉のチョイスが状況に似つかわしくなくて、けれど物語が崩壊しない絶妙な調和を持って選択されているから、センスが素晴らしいなといつも思います。言ってしまえばアホの子を描かれていることが多いのですが、つまるところ人間ってそんなものだよねと言われている気がして、作品を読んでいると事実そんな気がしてくる。おどけてみたり、得意げに失敗したりして、ちょっと抜けてるくらいが人らしく地球人らしい。それに、そういったキャラクターたちが何かを切欠として前に進んでいく姿が描かれるので、人間ってそういうこと(様々な意味)だよって言われてる気がする。何だか憎めないな。いいなーあのアパート。実に住んでみたい。毎日ドタバタは嫌かもですが、人生の中でとても幸福な時間を過ごすことが出来ることでしょう。(良いか悪いか別にして、めぐり合った時点で幸福。)
最近の著者作品の中では群を抜いて好きですね。短編集、または連作短編というフォーマットとしても完成度が非常に高い。「宇宙人との出会い」ってテーマからして大好きなわけですが、このクオリティで感傷的に持ってこられたら面白かったですとしか言えない。暫定ではありますが、2014年シーズン一番面白かった作品ですね。
では、ハロー、グッドバイ! アゲイン!