楽聖少女 (電撃文庫) [感想]
これは面白かった。著者の持ち味を存分に出した作品とも言えるだろうし、本当に色々な意味で著者だから書けた作品。随所に散りばめられている物語の展開、台詞など、全てに杉井光らしさを見られるのが、これまた読んでいて楽しい。
二百年前の楽都ウィーン。
物語はゲーテとして過去に連れてこられた主人公が、天才音楽家の少女と出会うことで、音楽と政治と時代に立ち向かう――と書くと格好良いのだろうか。主人公のユキはゲーテの知識と記憶を持っているけれど、いつものお節介で突っ込み上手な高校生ですし、ヒロインは一人称がボクな問題児で、脇を固める人たちも陽気な貴族や世間とズレた感覚を持つ皇子皇女と、世界観は違っても描かれるキャラクターまでは著者から逸脱しない。なので安心して読めてしまうし、笑う箇所と真面目になる部分、関心させられるところなど、読みどころがはっきりと分かるので読んでいて気持ちが良い。
パラレルワールド。
音楽家としては、サリエリ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなど現実にその時代を生きた人物たちが登場するが、微妙に歴史に食い違いがあったり、実際にはその時代にはなかった技術が既にあったりと、平行世界のような世界観を持っているのも作品の魅力。
現実の歴史と照らせ合わせながら読んでいくと楽しいですし、そうでなくともユキが注釈や解説を入れてくれるのでスムーズに物語に入っていける。また、ユキはあくまで現代人なので、彼の存在が物語上での時代背景と、読み手たちが生きる現代とをすり合わせてくれるので、変な違和感は感じない。
知識欲が満たされていくのが好きだ。
相変わらず音楽の知識には関心させられますし、読み手は主人公と同様に未来に起こることを知っていますから、未来がどうなっていくのかに関心がいきます。そこにエンターテインメントをプラスされたら、面白くないわけがない。
物語では教会に追われ、ナポレオンに狙われ、国家そのものと対立しながらも音楽を貫くヒロインが描かれるが、傍から見れば無謀だけれど、彼女にとってはそうすることが当たり前、芸術家で音楽家だから。権力に屈しない彼女の格好良さといったらなかった。それに加えて、彼女に協力してくれる脇役たちがこれまた格好良いのだ。やるときはやるロリコン共に乾杯。
面白かった。続きも楽しみにしています。
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- 作者: 杉井光,岸田メル
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/05/10
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