強くないままニューゲーム Stage1 -怪獣物語- (電撃文庫) [感想]
こんなゲームはクソゲーだ。
永遠と10分後に怪獣に踏み潰されて死ぬ人生。生き返ってみれば、特にボーナスポイントがもらえるわけでもなく、チュートリアルはおろかルール説明すらない。もちろん、スキルや特殊能力なんてものはあるはずもなく、ただただ強くないままニューゲームを繰り返す。
ゲームのシステムがどうこうとか、世界観とか、黒幕とか、そんなものは本作には登場しない。ゲームの中にいるのではないかと気付いた主人公たちを通して、実際にゲームをどうすればいいのか考える。勝利条件よりも、本当にこれからどうすればいいのかを必死に考える。
作中に登場する怪獣は、まさに主人公を殺そうとしてくる敵である。それもどうあっても勝てないことが分かりきった強敵。――人生とはセーブが出来ないクソゲーだ。斜に構えて言ってみると、本作の世界はまさにそれを模している。
ただし、強くないままニューゲームは出来るのだ。
怪獣という強敵は、世界であり、社会であり、学校であり、親であり、空気そのものだ。そんな強大で分けもわからなければ実感も湧かない敵と戦っても勝ち目はない。そもそも戦いにすらならないから、戦わない。漫然と流され、死んでいく。
主人公たちは、それでも考える。何回も死んで生き返ることを繰り返すことで、どすればいいのか悩む。友達が死んでいく姿を眺めるのは嫌だ。何とかしたい。けれど、教室にいる教師に怪獣のことを言っても信じてくれないから意味がない。誰も信じない。声を上げる奴はいても、大多数の声には勝てないし、空気という目に見えない怪獣に押しつぶされて黙殺される。大人は助けてくれない。
それを象徴するかのように、主人公の質問に対しての教師の反応であるし、クラスメイトの笑い声である。山崎さんはそんな中でも耳を傾けてくれる一握りの希望だ。だから、彼女を守るルートはある意味で正しい。
主人公がそうした様に、誰も犠牲にせずに、善い人になって、自分が傷ついてでも世界を変える覚悟と行動を示すのか。それとも、多少の犠牲をもってして、悪い人になって、相手にも代償を支払わせる蹴落とす覚悟と行動を示すのか。――人生の選択肢は、行動する奴にしか与えられないのだ。
来るのがおせぇよ。
主人公が最後に言い放った一言は、強烈に心に刺さることだろう。――強くないままニューゲーム、けれど、どこか強くなっている気がするのは、読んだ人だけだろうか。
Presented by Minai.
強くないままニューゲーム Stage1 -怪獣物語- (電撃文庫)
- 作者: 入間人間,植田亮
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: 文庫
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