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Infinity recollection

ライトノベルを中心に感想を載せているサイト。リンク+アンリンクフリー。

竜は神代の導標となるか (電撃文庫) [感想]

ファンタジー ロボット バトル ロマンス 電撃文庫 エドワード・スミス ★★★★

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

 

エドワード・スミス先生の新作。内容は王道戦記モノでとても好みですし、「侵略教師星人ユーマ」を書いている作家さんですのでその文体と構成の読みやすさには確信がありますから安心して購入できますね。戦記モノといってもひとえに様々あるわけですけれど、アニメ化やメディアミックスされた「魔弾の王と戦姫」や「グランクレスト戦記」の様に魔法と剣のファンタジーではなく、無骨に剣で戦う烙印の紋章」や「天鏡のアルデラミン」の方が世界観としては近いでしょう。ただ、本作は一点だけ強烈な個性としてロボットが登場することは記しておかなければならないでしょう。本作の一番の特徴であり核。主人公はこのロボット「鉄騎竜」を操り、歴史に名前を残すことになる。

 

素晴らしいのは巨大ロボを登場させるに当たって作りこんだ世界観と設定です。あくまで鉄騎竜」は兵器として運用されているものであり、歩兵隊や騎兵隊と同じような位置づけで「鉄騎竜」部隊として運用されたりもするので戦場での役割は非常に大きい。また、兵器として強大な力がある為に、保有数についても厳格な規制がかけられていたり、内部構造の紅蓮機関は王国の特許技術でありその駆動時には毒素の煙を発生させるなど、通常兵器保有数の制限やガスタービンディーゼルエンジンの要素があったりと設定が練られています。また、「鉄騎竜」については歴史に踏み込んでもおり、表題にもある「神代の時代」の遺産としての技術(ロストテクノロジー)という側面もあるため兵器を運用すればするほど歴史が紐解かれていくばかりか、そもそも兵器として使うために応用した技術で生活に役立つ技術が確立できるなど、まさに戦争と一緒に文明が栄えていく様が描かれることになる。主人公には戦争に技術を使うことへの苦悩や葛藤があるのだけれど、けして兵器として運用するつもりではなかったとしても扱える力があるのなら、目の前の好きな人を守るために使うという潔さがいい。

 

戦記モノなので敵側の動向も描かれていくわけなのだけれど、不思議とこちらも魅力的に映るような描き方をしてくる。首謀者ウェイン・クローザが行った王族虐殺は許すことの出来ない行為だろうし裏切りは裏切りなのだけれど、権力が欲しかったとかお金が欲しかったとかではなく、軍人として無為に安寧を過ごしていく王国に対して革命(軍事クーデター)を行ったというのが面白い。自国の未来を憂いての反乱であり、彼の元に集った騎士や政治家たちの数からも正当性は主張できるのだろうし、王位継承権のある人間を全員殺したことについてはその迅速さと容赦なさがとても軍人らしい。また、彼の元に集った有能なキャラクターたちがとても魅力的なのです。今回は王国最強騎士コバルドロードに焦点が当てられていたけれど、その強さと才能の片鱗を見せられると共に、自分の嫁さんをあそこまで溺愛している変人はそうはいないだろうなと。そもそもコバルドロードの愛され方が根本的におかしいので度が過ぎるほどのM体質にはちょっと引いてしまうほど。主人公もいい加減に許婚が大好きだと公言して憚らないので、お互いに戦っている様がちょっと面白い。

 

まだまだ序章ですから軍略で軍勢対軍勢というわけにはいかないのだけれど、敵味方共に魅力的なキャラクターに囲まれた中で歴史が動いていく様と、主人公とヒロインのイチャイチャに頬を緩ませつつ楽しく読める。これまた楽しみなシリーズが出来上がったと思います。――必ず守れ、この竜で。言葉の意味に気づいたときに、主人公が背負いヒロインが背負って、二人で分かち合うものの重さに気づきます。

 

それはそうと挿絵は大変でしたね……。納期まで時間が無かったのかラフ原を載せるような形になっている箇所があり残念でした。塗り方のせいもあるのかもしれませんが白黒になったときにどうしてもカラーより見劣りする挿絵がちらほら。エンドが決まっている中で、設定や世界観を練りこんだ結果、イラストレイターさんにしわ寄せが来たのかどうかは分かりかねますが、2巻は戦っているレイバーンが見たいです。

 

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

 

 

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫) [感想]

冒険 SF アクション 電撃文庫 鳩見すた ★★★

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

 

アキはどうしてこうまで不幸なのか。これまでメッセンジャーとして仕事をしてこれたのが不思議なほど不器用を発揮するばかりか、幸運値が極端に少ないのでは?と思わせる苦境への遭遇率に読んでいて戦慄します(恐ろしい子!)。それでも生きることを諦めない、たくさん生きることを心に決めているから行動できるアキの姿がぶれないものだから、不遇で痛々しい状況下に心を痛めつつも応援したくなってしまう。自然と背中を押したくなる愛嬌を持っているのですよね。だからこそ、オルカやタカが慕っているのかもしれませんし、フロートで出会う住民たちとも何だかんだ仲良くやれる理由になっているのかな。

 

さて、冒頭部分から船を奪われるという、一巻の新しい船出は何だったんだ!というか何やってくれてんだよ!成長してないな!と叫びたくなる不器用さと不運ぶりを発揮するアキは、まるでダイジョバナイ。わざとかどうか分からないけれど物語の構成についても一巻と似通っているので流れが変わらないことから、一巻とは何だったのかと感じる人も中にはいるのでしょうが。ダァジョーブ。物語に流れる空気感だったり雰囲気が好きなった身としてはひとつ海の生態系や在り方が読めることが何より面白い。海の謎をメインに読みながら、「デンチュービット」とか「ブリッツリーフ」とか毎回のようにカッコイイネーミングのハイセンスすぎる舞台装置を投入してくる著者の才能に脱帽しっぱなしでした。加えて「ウイテマテ(UITEMATE)」の自己救助法がこの世界では世界標準になってることにちょっと感動。そんな世界に関わってくるアキには愛嬌があると言ったけれど、子供であることを全面に押し出している頼りない感じが憎めないキャラクターに仕上げているし失敗するアキを見ているとイライラじゃなくて頬が緩む感じとでも言うのだろうか。それこそシマさんの親心のような心境になって有耶無耶の内に許しちゃうみたいな。とにかくアキからは元気がもらえるから嫌いじゃない。たまにはアホの子がいたっていいじゃない。

 

終盤でまさかの超展開となるわけですが、これで遺跡探索的な冒険要素にいくのか、考古学的な歴史探検の旅へ繰り出すのか、世界のあり方を覆すような謎が秘められた引き具合だったので三巻が楽しみですね。今度は流石に構成が変わっているでしょうから焼き直しということはないだろうし、海底に何があるのかアキと一緒に見定めたい。

 

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

 

 

おともだちロボ チョコ (電撃文庫) [感想]

ロボット ラブコメ バトル シリアス SF 電撃文庫 入間人間 ★★

おともだちロボ チョコ (電撃文庫)

 

これまた凄い作品を書いてきたな、けれど消化不良だなというのが正直なところだろうか。入間人間先生の作品は好きなのでよく読みますし、新刊を見つけると買ってしまうので今回もその例に漏れないわけだけれど、あまりにあっさりと終わったので少し拍子抜けでした。アイデアは切れているし素晴らしいものがあるのだけれど、締め切りを守らざるを得ず出した本なのかな?と思う粗さを伴った作品に読めました。アイデア専攻だったのか全て読み終えてみると構成として着地点が見えないのがそう思う理由だろうが、思いつきは魅力的。しかしながら、タイトルから巨大怪獣に対してロボットで戦う話を想像できる人はいるだろうか。最強ロボット「カァールディス」のパイロットとして生み出されたロボット(ややこしい)であるチョコだけれど、外見はただの女の子。このチョコとの交流を描くのが本作だ。

 

驚きなのは「おともだちロボ」といいながら、初っ端から人間を殺しにかかるところだろう。およそ人間的とは言いがたい言動には本当にお友達になりたいと思ってくれているのか読み取れないどころか、とてもじゃないが人間には許容できない価値観を持っているので強烈に彼女が人間ではないのだと思い知らされる。冷酷というか薄情というかシステム的でロジカル的なのですよね。博士は「悪意を持っている人間は友達になる資格はない」と言及するのだけれど、これがかなり核心を突いているように感じた。というのも作中で主人公のトモカが「青になる・青い世界」というキーワードを想起する場面や、博士が怪獣のコア(青い)を所持していたり、そもそもチョコやカァールディスの動力を明言しないまでも怪獣との繋がりを示唆させている。友達だと言ってくるロボットは一体何なのか薄々気づきながらも、どうしても憎めないチョコという存在にトモカは自分に困惑しているし、だからこそ倒すべき敵あるはずの怪獣に対しても特別に憎悪だとか復讐心や敵愾心を持つことが出来ずにいるのだと思う。思えばチョコとの出会いにしても友達候補に選ばれたことについても、怪獣に対して本気の悪意を見出せていないことが理由であるように感じるので、博士の台詞は色々意味深なのだ。また、博士は「人間とは人間こそ至高の存在であると思っている。だからロボットにも人間の価値観を求める」と言うが、これは怪獣にも当てはまるのだろうと思う。つまるところ、怪獣が本当に人間を攻撃しているのかは分からないということだ。目的も分からないのに一方的に攻撃しているのは人間の方だという言い方も出来るが、人間にしても都市を破壊されたり命がかかっているのだから戦うのは仕方ないという言い方が出来る。地球にとっても怪獣と人間はどちらが有害で有益なのか分からない。チョコと友達になるということも意味は、実はとても重いようにも思えるし簡単なようにも思える。単純にロボットとのコミュニケーションするような作品を読みたいなら少し違う系統になるかもしれませんが、不思議な世界であり荒廃した世界で描かれる女の子たちの日常は特殊だけれど、女の子していたように思う。百合とまでは言わないけれどね。

 

作中では回収されない伏線が様々ある。トモカの成績についての説明はとても気になったので読み終わってから考えたのだが、何だろう。トップクラスの能力で役に立たない。トモカらしさ、感受性とか? あとは火星の現状は全く説明されないのだけれど、火星は青い星になっている言及はある。これは怪獣に滅ぼされたと捉えるべきなのかしら? 怪獣は火星から転送されてくるのかしら? 火星移民は本当に火星にいるのか怪しいのです。こういった一連の設定を考えたりするのも著者の作品の楽しさですかね。

 

 

コロシアム (電撃文庫) [感想]

シリアス ホラー 学園 バトル ゲーム ダーク 電撃文庫 土橋真二郎 ★★★

コロシアム (電撃文庫)

 

小学校や中学校のクラス編成では偏りが出ないようにバランスよく生徒を配分するのは良く知られた話だろうと思う。勉強が得意な子、運動が得意な子、クラスをまとめられる子、どんなクラスになったとしても予め生徒がバランスよく配分されているのだからクラスとしての機能を保つことが出来る。中でも最優先でクラスに振り分けられるのは「ピアノを弾くことが出来る子」であり、だからこそ音楽祭や合唱コンクールといった必ずある学校行事でピアノを弾ける子が居ないという事象は発生しない。子供ながらに何で必ずピアノを弾ける子がいるのだろうと疑問に思ったものだったが、大人の事情があることに気づいたのはかなり後になってからだった。本作では、そんなクラス編成の事情がかなり特殊に設定されている。――最優先は「自殺未遂に至ったことがある子」なのだ。何故? それが分かったとき、作品の中から湧き上がってくる生暖かい風に頬を撫でられた気がして、急に学校という閉鎖空間の気持ち悪さに思い至り真実に気づくことになる。最優先にクラスに割り振られるのは「ピアノを弾くことが出来る子」、けれどここでは「自殺未遂に至ったことがある子」が優先されている節がある。じゃあ一体僕らに何をやらせたいのだ。君なら表紙の登場人物たちの内、誰とコミュニケーションをとるだろうか。ランダムに決めるのも良いだろう。ならシリンダーを回してみようじゃないか。ロシアンルーレットのように。

 

原点回帰と銘打っているだけに土橋真二郎イズム全開でした。徐々にモラルが欠如していく世界。ヒロインをサポートしてフォローする主人公。自動販売機で売られるペットボトル水とビスケットのバランス栄養食。拳銃と弾丸とレーダー。コミュニケーションと言葉というキーワード。土橋真二郎先生の作品が好きな人間なら思わず「ああ」と納得してしまう単語から放たれる物語は、悪意に満ちたモラルが欠如した世界でありながらも美しく神秘的に映ります。感じ取るべき部分は「扉の外」や「ツァラトゥストラへの階段」から変わりないのですが、本作の方がより悪意と感情が直接的に描かれていくのでゲーム性よりは人間性を訴えてきていたように思います。故に、熱気を飲み込みすぎて胸焼けしたのは本作の方が強烈であり、対ストレス性を試されているような不快感と気持ち悪さに襲われる。これが薄ら寒さとかホラーの方面に昇華されればよいが、されない場合にはただただ不快な思いをすることになるだろうことは注意したい。

 

また、現代らしくスマートフォンをコミュニケーションツールとして作中に登場させているのだけれど、これがまた悪意をもって描かれているものだから怖い怖い。流れていく会話にどんな意味があるのか。時間の無駄だという表現を主人公はするけれど、まさに一理あって。大学のサークルとかはその例に漏れない気がします。色々と時間の無駄を感じるのですよね。もっとも現実はここまで極端ではないと信じたいし、少なくとも周囲ではそんなことはなかったように思う。「……あれ?知らないだけ?」加えて興味深かったのは、終盤に近づくにつれて公開される世界のあり方だろう。主人公たちが当たり前だと思っていることなので詳細に説明されなかっただけで、近未来的なその世界には読んでいて恐怖した。最後まで読んでみて一番恐ろしかったのは人間やら感情やらではなく世界だった。現実の学校という舞台から「閉鎖された特殊な空間」をキーワードに再構成された舞台は、エリート養成学校の皮を被った監獄でしかなかった。

 

恐らくはシリーズ物だろうから二巻が発売するのだろうが、第一次サバイバルは意味がないことが判明したところで大掛かりにどう舞台を動かしてくるのかは、とても楽しみ。

 

コロシアム (電撃文庫)