Infinity recollection

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【感想】ストライクフォール (ガガガ文庫)

ストライクフォール (ガガガ文庫)

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン まとめ 4~10 (電撃文庫) [感想]

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (10) (電撃文庫)

竜は神代の導標となるか (電撃文庫) [感想]

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

 

エドワード・スミス先生の新作。内容は王道戦記モノでとても好みですし、「侵略教師星人ユーマ」を書いている作家さんですのでその文体と構成の読みやすさには確信がありますから安心して購入できますね。戦記モノといってもひとえに様々あるわけですけれど、アニメ化やメディアミックスされた「魔弾の王と戦姫」や「グランクレスト戦記」の様に魔法と剣のファンタジーではなく、無骨に剣で戦う烙印の紋章」や「天鏡のアルデラミン」の方が世界観としては近いでしょう。ただ、本作は一点だけ強烈な個性としてロボットが登場することは記しておかなければならないでしょう。本作の一番の特徴であり核。主人公はこのロボット「鉄騎竜」を操り、歴史に名前を残すことになる。

 

素晴らしいのは巨大ロボを登場させるに当たって作りこんだ世界観と設定です。あくまで鉄騎竜」は兵器として運用されているものであり、歩兵隊や騎兵隊と同じような位置づけで「鉄騎竜」部隊として運用されたりもするので戦場での役割は非常に大きい。また、兵器として強大な力がある為に、保有数についても厳格な規制がかけられていたり、内部構造の紅蓮機関は王国の特許技術でありその駆動時には毒素の煙を発生させるなど、通常兵器保有数の制限やガスタービンディーゼルエンジンの要素があったりと設定が練られています。また、「鉄騎竜」については歴史に踏み込んでもおり、表題にもある「神代の時代」の遺産としての技術(ロストテクノロジー)という側面もあるため兵器を運用すればするほど歴史が紐解かれていくばかりか、そもそも兵器として使うために応用した技術で生活に役立つ技術が確立できるなど、まさに戦争と一緒に文明が栄えていく様が描かれることになる。主人公には戦争に技術を使うことへの苦悩や葛藤があるのだけれど、けして兵器として運用するつもりではなかったとしても扱える力があるのなら、目の前の好きな人を守るために使うという潔さがいい。

 

戦記モノなので敵側の動向も描かれていくわけなのだけれど、不思議とこちらも魅力的に映るような描き方をしてくる。首謀者ウェイン・クローザが行った王族虐殺は許すことの出来ない行為だろうし裏切りは裏切りなのだけれど、権力が欲しかったとかお金が欲しかったとかではなく、軍人として無為に安寧を過ごしていく王国に対して革命(軍事クーデター)を行ったというのが面白い。自国の未来を憂いての反乱であり、彼の元に集った騎士や政治家たちの数からも正当性は主張できるのだろうし、王位継承権のある人間を全員殺したことについてはその迅速さと容赦なさがとても軍人らしい。また、彼の元に集った有能なキャラクターたちがとても魅力的なのです。今回は王国最強騎士コバルドロードに焦点が当てられていたけれど、その強さと才能の片鱗を見せられると共に、自分の嫁さんをあそこまで溺愛している変人はそうはいないだろうなと。そもそもコバルドロードの愛され方が根本的におかしいので度が過ぎるほどのM体質にはちょっと引いてしまうほど。主人公もいい加減に許婚が大好きだと公言して憚らないので、お互いに戦っている様がちょっと面白い。

 

まだまだ序章ですから軍略で軍勢対軍勢というわけにはいかないのだけれど、敵味方共に魅力的なキャラクターに囲まれた中で歴史が動いていく様と、主人公とヒロインのイチャイチャに頬を緩ませつつ楽しく読める。これまた楽しみなシリーズが出来上がったと思います。――必ず守れ、この竜で。言葉の意味に気づいたときに、主人公が背負いヒロインが背負って、二人で分かち合うものの重さに気づきます。

 

それはそうと挿絵は大変でしたね……。納期まで時間が無かったのかラフ原を載せるような形になっている箇所があり残念でした。塗り方のせいもあるのかもしれませんが白黒になったときにどうしてもカラーより見劣りする挿絵がちらほら。エンドが決まっている中で、設定や世界観を練りこんだ結果、イラストレイターさんにしわ寄せが来たのかどうかは分かりかねますが、2巻は戦っているレイバーンが見たいです。

 

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

竜は神代の導標となるか (電撃文庫)

 

 

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫) [感想]

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

 

アキはどうしてこうまで不幸なのか。これまでメッセンジャーとして仕事をしてこれたのが不思議なほど不器用を発揮するばかりか、幸運値が極端に少ないのでは?と思わせる苦境への遭遇率に読んでいて戦慄します(恐ろしい子!)。それでも生きることを諦めない、たくさん生きることを心に決めているから行動できるアキの姿がぶれないものだから、不遇で痛々しい状況下に心を痛めつつも応援したくなってしまう。自然と背中を押したくなる愛嬌を持っているのですよね。だからこそ、オルカやタカが慕っているのかもしれませんし、フロートで出会う住民たちとも何だかんだ仲良くやれる理由になっているのかな。

 

さて、冒頭部分から船を奪われるという、一巻の新しい船出は何だったんだ!というか何やってくれてんだよ!成長してないな!と叫びたくなる不器用さと不運ぶりを発揮するアキは、まるでダイジョバナイ。わざとかどうか分からないけれど物語の構成についても一巻と似通っているので流れが変わらないことから、一巻とは何だったのかと感じる人も中にはいるのでしょうが。ダァジョーブ。物語に流れる空気感だったり雰囲気が好きなった身としてはひとつ海の生態系や在り方が読めることが何より面白い。海の謎をメインに読みながら、「デンチュービット」とか「ブリッツリーフ」とか毎回のようにカッコイイネーミングのハイセンスすぎる舞台装置を投入してくる著者の才能に脱帽しっぱなしでした。加えて「ウイテマテ(UITEMATE)」の自己救助法がこの世界では世界標準になってることにちょっと感動。そんな世界に関わってくるアキには愛嬌があると言ったけれど、子供であることを全面に押し出している頼りない感じが憎めないキャラクターに仕上げているし失敗するアキを見ているとイライラじゃなくて頬が緩む感じとでも言うのだろうか。それこそシマさんの親心のような心境になって有耶無耶の内に許しちゃうみたいな。とにかくアキからは元気がもらえるから嫌いじゃない。たまにはアホの子がいたっていいじゃない。

 

終盤でまさかの超展開となるわけですが、これで遺跡探索的な冒険要素にいくのか、考古学的な歴史探検の旅へ繰り出すのか、世界のあり方を覆すような謎が秘められた引き具合だったので三巻が楽しみですね。今度は流石に構成が変わっているでしょうから焼き直しということはないだろうし、海底に何があるのかアキと一緒に見定めたい。

 

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)