Infinity recollection

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少女は書架の海で眠る (電撃文庫) [感想]

少女は書架の海で眠る (電撃文庫)

 

人が本を読むときというのは、どんなときなのでしょうね。一人になりたいからでしょうか。知識欲を満たしたいからでしょうか。ライフワークになってしまっていますかね。単純に暇つぶしなんでしょうか。むしろ何故人は本を読むのでしょうね。本を読んだからといって何でも出来るようになるわけではないけれど、本というものは著者によって様々な角度や物事の捉え方をしていますから、色々な人の思考の一旦を垣間見ることが出来て面白いですよね。

 

本作は「マグダラで眠れ」のスピンオフとして、書籍商を目指す少年フィルの物語が展開されるのですが、シリーズを読んでいなければ描写が分からないということはなく、むしろ「マグダラで眠れ」を読んでいる人が絶対に読むべきということもなく。世界観を共有している程度なので、商人と教会と宗教と異端といった中世の世界観が好きなのであればスムーズに物語に入り込めます。真摯に本が好きだという気持ちをこめて作られた作品だというのは、物語に込めれれた描写の数々からも伝わってくる。

ただ、ヒロインであるクレアとの会話が成り立つようになるまでは、ひたすらに主人公の独白で進行していく形なので、とにかく物語が地味で静かです。それこそ、作中で異端審問間のアブレアが読書をしているが如く埃も立たないような静けさ。錬金術や商売での逆転劇みたいな大仰な終盤がやってくるわけもなく、しっとり静かに本への夢や思いを語る姿には何となく納得。目録作りにしても本屋で背表紙を指差して眺めていくのが楽しいように、どんな本があるのかワクワクしながらフィルは作業したはずで、並び順の美しさに気づくもの本が好きだからだ。終盤、クレアの秘密にかけられた真実へと到達したときに家族の優しさと奇跡が見られたのは良かった。

 

 

文句の付けようがないラブコメ2 (ダッシュエックス文庫) [感想]

文句の付けようがないラブコメ2 (ダッシュエックス文庫)

 

頬の筋肉が緩むこと緩むこと。文章を読んでいてここまで身悶えるラブコメは文句のつけようがない。一巻のときから感じてはいたのだけれど、主人公である優樹とヒロインである世界の関係が何だか明治大正浪漫とでもいいましょうか。どこか古風な間柄や距離感がついつい背中を押してしまいたくなるのですよね。世界に関しては口調がまんま古風で変わっているわけですが、恥ずかしがりやだったり世間を知らなかったりする部分と儚い雰囲気が相まって大和撫子を思わせますし。優樹にしたって珍しいくらいに真っ直ぐで好きなものは好き嫌いなものは嫌いとキッパリ言い切れる男らしさがあるのが純然たる昔の日本人の雰囲気を感じるのです。それこそ世界に対して好きだとプロポーズしてしまうところや、おチヨさんとのやり取りでも冗談と言いつつ世界への好意を口に出来るところ。照れているのだけれど傍目には見せずに完遂するところが男ですね。

 

「見た目も可愛いし、仕草も可愛いし、考えていることも可愛い。可愛いものだけで構成されている可愛いモンスターです。なんなら結婚したいと思うくらいです」

 

作中では優樹が世界を表現するときの台詞に彼の優しさや愛しさが詰まっている。歯が浮くような台詞もあるけれど、それがいいのです。身悶えした後に胸を締め付けられるような何ともいえない感情の渦が生まれる。これは結末が分かっているからなのだけれど、二人が全力で恋をしていく様がひたすらに底抜けにポジティブに描かれていくものだから、読み手の心は憂愁な不安な気持ちに沈んでいくようでした。感情の落差に翻弄されます。

一巻では優樹が世界を救う側に回っていたのが鮮明でしたが、二巻では優樹の周囲も幸せではないことが明確に言及され表現されるので、むしろ救われていたのは世界ではなく優樹だったように映りました。優樹は自分のことをクラスに馴染めてないとか仕方ないとか明るく言いますが、彼にしても様々な葛藤があったことは想像に難くない。優樹も世界と出会うことで変われたのでしょうね。恋をしてしまうのも仕方のないことなのかもしれませんね。一目惚れだったのかもしれませんね。人が恋をする瞬間をというのを読ませてくる本作は中々に文句が付けられませんね。

では、次の後編を楽しみにしつつ。

 

 

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫) [感想]

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

 

第21回電撃小説大賞<大賞>受賞作。

タイトルにある「ひとつ海」が示すように全ての陸が海に沈んでしまった青の世界で、主人公のアキが懸命に生きていく姿を描く、生きるとは何かを描く冒険譚。読み始めの印象はとにかく世界が青くて茹だる様な夏の暑さに顔にかかる潮風が感じられたので、思わずヨコハマ買い出し紀行を思い出しました。全てが海に沈んでいることから現代の技術は後退していて、ペットボトルの水が貴重だったり、調味料は基本塩だけとか、嗜好品が高価だったり、凄く前時代的ではあるのだけれど魅力はまさにそこにあって、どこか懐かしさを感じさせるSFが描かれていくのが好印象でした。

 

特に素晴らしかったのはアキの視点で語られていく世界の数々。海の描写などは地に足が着く現実感があって、単純な船の揺れに始まり塩辛い海、海水浴に行くくらいなら我慢できる潮風も船上生活では不快でしかないだろうなとか。無人浮き島でのサバイバルでの腐朽した木材の水を舐める描写の苦々しさと、視界に映りこむ足元や手先を這い回るフナムシ的な甲殻類・甲虫の気持ち悪さには肌がザワつきました。次はどうなるのだろうという手に汗握るのとは違って、じっとりと汗ばむワクワク感とでも言えばいいのだろうか。とにかく変な緊張感を楽しませてくれた。

心理描写の搦め手も面白くて。アキの視点で語られるので、田舎者のアキは基本的に世界を知らないですし常識がありません。故に常識をアキの価値観で判断して処理します。そこに生まれる齟齬がコミカルさを演出していて非常に魅力。物語のテーマは「生きること・生きるための戦い」なので葛藤や弱音もありながら、逆境や苦境や絶体絶命を乗り越えていくのでシリアスな雰囲気も多い中、調和をとるように差し込まれるアキの勘違いが良い味をだしている。逆にここまで鈍感や勘違いやポジティブ変換が出来る頭だからこそ、孤独な海を生きる海の男たるセイラーなのかもしれません。

また、過去の遺産として現代の物がたびたび登場するのだけれど、その使用用途や過去の常識が真逆の常識として世界に広まっているなどの遊び要素にとてもとてもセンスを感じる。言葉遊びも絡めた表現力の勝負なのだけれど、ビルデン礁など中盤で意味が理解できたときの衝撃は記憶に残るしセンスの塊。

 

著者近影で語られてもいますしラジオでも語られていましたが、著者は南国の島・海・森によく行かれるとか。そんな方だからこそ描けるリアルな船上描写や航用語、海の上からの景色でしたし、表現として選ばれている言葉からは語彙力も感じました。

ただ、終盤に物語を締めるにあたり駆け足になってしまったのは頂けない。ラストを盛り上げるための戦いの演出はやり過ぎに映りました。加えて、尺の関係上は仕方がないのかもしれませんが登場人物を増やすのであればもう少し丁寧な説明が欲しかったです。唐突に現れて理由を語られても疑問符だけが残ってしまいます。伏線を回収して描きたいところを詰め込みたいのは分かるのですが、率直に言うと世界観の広がりを数ページで失った気分になりました。確かに締め方だけで言うと詰め込んだ部分があるからこそ締めになるのだけれど、如何せんラストが悪目立ちしすぎる。気持ちよく読めていたのに、残念さが印象に残ってしまいます。ここは新人作家さんには難しい部分ですね。初シリーズの一冊目から分厚いなど聞いたことがないですし。

 

電撃文庫の大賞受賞作は一癖あるとよく言われますが(少なくとも自分の周りではそうですが)、本作品も恐らくそれに付随する作品となったはず。勘違いしないで欲しいのですが面白いです。欠点は終盤の締め方であって、他の部分は稀にみる読み手を作品に引き込んでくるタイプの面白さがあります。大賞を受賞することには納得ですし底力がある作品だとも想いますが、商業的には売れると思えないのが悲しいところでしょうか……。でも世界観と懐かしい雰囲気は好印象というかピンポイントで狙い撃ちされましたし、文章から感じる著者のセンスには驚かされますから大注目の作家さんには違いない。是非、読んでみることをオススメします。それでは皆様、ボン・ボヤージ。

 

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

 

 

思春期テレパス (メディアワークス文庫) [感想]

思春期テレパス (メディアワークス文庫)

 

心をグサグサと抉ってくるのがたまらない。学生諸君が抱えている友情だとか恋だとかの悩みのモヤモヤ感を、これでもかと眼前に突きつけられて思わず読んでる方が恥ずかしくなったり目を背けたくなる感じ――でもちょっと見てみたい、みたいな。天沢夏月氏が描く青春模様はいつものように繊細で肌をざわつかせます。

 

本音という奴はいい加減に厄介で、大人になるということは建前と本音を使い分けて生きていくということでもあり、それは嘘を吐くということでもあります。学や翼や大地は子供から大人への階段を上っている最中の高校生で、彼らだって嘘は吐きますし、その行為の意味が理解できないわけではない。――でもいつから建前と本音を使い分けるようになったのか。相手に少しでも良く思われたいから? 嫌われたくないから? 本音メールは強制的に自分の本音を知らせてしまうし相手の本音も知ってしまうことになるのだけれど、別にその本音は知りたかったことではないのですよね。確かに学も翼も大地も「本音が知りたい」と空メールを返信したけれど、遊びの延長線上でどうやっても相手の本音が知りたかったわけではないですし、友達のことは何でも知っているはなのだから必要は無いと考えたはず。この辺りはとても羨ましくて、学生時代の友人というのはそれこそ何年も同じ世界で生きているわけだから何でも知りえているわけです。建前もあるかもしれないけど限りなく本音に近いところで生きているはずで、趣味趣向から性格や癖もどうでもいいことまで知っている。作中での大地の好き嫌いや学の目を逸らす癖などはそうですよね。色々と知っているから友達付き合いだって気が合う友達としか付き合いませんし、自然と同じような価値観でグループになっていたりします。それが学、翼、大地。出会い方も本当に小学生みたいで、夏の匂いがしてきそうで頬がむず痒くなりました。

 

そんな彼らが疑心暗鬼というか、相手の考えていることが本音メールで分かるせいで己の中の想像と不安に振り回されていく様は高校生らしく青春で、その蒼さには道を教えてあげたくなるもどかしさが渦巻く。本音メールの取り消しなんて文言が飛び出してきたときには胃に鉛球を詰め込まれたみたいな気分になりました。この辺りの按配というか構成の仕方は見事で、読んでいて飽きさせない。

中でも好きなのは夜子で展開させる様々なパターン。彼女は脇役だけれど重要な役割を持っていて本音メールの被害者でもあるのだけれど、その影響から上手く人と話せないですし意図的に友達を作らないように振舞う。行動からは本音を探ることが出来ないという分かりやすい指針になっていると共に、本音メールでしか本音が分からない彼女からはツンデレ的な可愛らしさを彷彿とさせられるので本音メールの善の要素も兼ね備えているように序盤は見える。学とのやり取りを見ている限り、夜子と学でラブコメが一本出来ちゃう具合なので、広げていれば身悶えするような破壊力あるラブコメになったはず(物語が変わっちゃうよ?)。そこから中盤と終盤にかけて本音メールは本当に本音なのか建前とは何なのかを突きつけると同時に、友達とのコミュニケーションを考えさせるトリガーに夜子を据えている。これが綺麗。

作中では所謂ガラケーフィーチャーフォンの全盛期時代のように見えるのだけれど(これがスマートフォンなら少し違うのかしら)、学生だからこそ出来る「会って話す――会話する」ことの大切さを不器用に躓きながらも翻弄されながらも問いかけてくるのには、青春しているなと妙に納得している自分がいた。メールやSNSメッセンジャーアプリを使ってしまうと、どうしても分かってるだろとか思い込みしがちですが、本当はその一言「分かってるよね」を顔を突き合わせて言ってあげればいいだけなのですよね。ましてや学生の間はずっと一緒なのですから、気持ちを伝え合えばいい。例え離れ離れになっても学や翼が大地を迎えに行ったように行動しだいですよね。「これからは、もっとちゃんと話そう」そういう意味でも高校生は本音を言い合うことが許されたネバーランド最後の住人なのかもしれません。キラキラしていて、眩しいです。

 

思春期テレパス (メディアワークス文庫)
 

 

クズと金貨のクオリディア (ダッシュエックス文庫) [感想]

クズと金貨のクオリディア (ダッシュエックス文庫)

 

別レーベルの作家同士によるコラボ小説なわけだけれど、今回は作家による相性というものを確信させられました。元々、「変態王子と笑わない猫。」にしろ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」にしろ読んだことがある作品なわけだけれど、この二つにはお互いに癖のあるキャラクター達が青春を展開させていく物語という共通点がありました。けれども、前者のさがら総氏が描く作品のキャラクターというものはどこかしら好きになれない印象があり、後者の渡航氏は癖のあるキャラクターを丁寧に料理しているのがいつも好印象でした。故に、申し訳ないけれど変猫は2巻までしか読んでいないですし、逆に俺ガイルは9巻までは読んでいます。(10巻は手元にありますが読めていません。)そんなわけですから、 さがら総氏には苦手意識がありましたので渡航氏のネームバリューで購入したような形になります。それでも苦手意識を覆すことは難しかった。学園ラブコメとか青春活劇を読みに来たら軽くサイコホラーでした。もしくはコメディ。

 

こういう形になってしまうと比較しがちになって自分でも嫌なのですが、やはりどうしてもヒロインが好きになれない。作中で主人公が言及するようにただのサイコパスにしか見えないのです。いくら妹の為なのだろうなと序盤に伏線を張られたところで、文章におこされたキツイ言動が消えるわけではない。また、テーマがテーマだけに金に固執するのはいいのかもしれませんが、少し過激すぎやしないだろうかと疑問符がついて回りました。これは自分が潔癖症なだけなのかもしれませんが不快でした。特にヒロインパートは地の文も少なく会話劇になりがちなので、想像する範囲が狭すぎて顕著です。これらがミステリアスな演出だとすれば完全に失敗ですし、物語の秘密を握っていなければいけない(キャラクター含めて詳しい説明が出来ない)のだとしても好感度があがる余地がないのはどうなのだろう。

逆に主人公には好感が持てます。自らをクズだと卑下しすぎな部分はウザったくも映りますが、そこは地の文での描写を丁寧に挿入することですっきりと見せている。そのまま八幡を彷彿とさせるキャラクター像にはなっているのですが、ここは読者に求められている部分だろうと思うので正解ではないでしょうか。自分を卑下しつつ社会を斜めから切り裂く考え方に、ダークヒーローっぽく格好良さを演出しますが実はただ捻くれてるだけという。しかもかなり真面目。要するにただのぼっちで凄く良い奴なのですよね。個人的に凄く好きなのは244頁、245頁の一連の切り替えしですね。相変わらずの千葉リスペクトに心がオープンセサミ、奇跡も魔法もありました。

 

二人の視点が入れ替わりながら展開していく方式はどうにも読み難かった。出来ることなら渡航の「クズと金貨のクオリディア」が読みたかったのが本音ということになってしまうのだが、物語のオチにしても急展開すぎてついていけない。気づいたらヒロインが裸だったのだから驚きもするだろう。一目惚れ云々言われたところで納得できないのでこれまた首を傾げたくなる。主観と主観がすれ違ってぶつかって、とにかく描きたかった部分が物語としてよく分からなかったが、続くらしい。

 

クズと金貨のクオリディア (ダッシュエックス文庫)

クズと金貨のクオリディア (ダッシュエックス文庫)