砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫) [感想]
海野藻屑のバラバラ遺体が発見された。
衝撃の書き出しから始まる物語は、けれども澄み切っていて明るかった。最終的に海野藻屑が死んでしまうことが分かっているにもかかわらず、暗くなりすぎない。登場人物たちの感情が伝わってくる文章は、読み手を強烈に引き込む魅力がある。
主人公は山田なぎさという少女。物語は彼女の一人称で語られていくわけだけれど、一人称というよりは三人称に近い印象を受けた。どこか高みから周りを描写していくような一人称。転校生としてやってきた藻屑に好かれるなぎさだけれど、なぎさは藻屑と馴れ合う気はない。
そんな二人が不思議な友情を感じていく流れが美しかった。
なぎさにしても藻屑にしても、どこか世間から逸脱している。自分のことを人魚だと自称し、虐待から逃避している藻屑。忙しい母に代わって家事をこなし、引き篭もりの兄を世話するなぎさ。
なぎさから見た藻屑は儚く痛々しい存在だけれど、なぎさも藻屑から見ると儚く痛々しいのかもしれない。飼育係としてうさぎの飼育をするなぎさ、兄を神の視点を持った貴公子だというなぎさ。砂糖菓子の弾丸を打ち続ける藻屑と、生きていく実弾を探すなぎさ。
僕たち私たちは、常に生き残りをかけて社会と戦っている。今生きているのは偶然にも勝ち残り競争に生き残ったからであり、人間とは意外と簡単に死んでしまう。そういう儚い生き物だけれど、大抵の人はそのことに気付こうとはしない。
一番身近にありながら、気付くことが出来ない。
破綻が決まっている物語をどのように許容していくのか。藻屑の運命と、なぎさが受け止めた運命は、そのまま読み手の人生に繋がること。道筋は違っても、到着する場所は同じだろう。だからこそ、変に現実感があって記憶を呼び覚まさせる衝撃があった。
面白かった。悲劇には違いないが、悲劇には収まらない充実感を得られる。
Presented by Minai.

- 作者: 桜庭一樹,むー
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2004/11
- メディア: 文庫
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